海の京都

和の源流をめぐる旅

その六 綾部

綾部大橋:ポーストリング・トラスを7つ連続した架け橋。登録有形文化財

綾部は京都府の北部に位置している。
昔ながらの田園風景や美しい里山が今も息づく。
遺跡も点在し、山深い中にも太古から人々の営みがあった。
悠久の時間とともに綾部に寄り添ってきた由良川は
ゆったりと日本海に流れ込み、文化や歴史を育んだ。
地理的にこの地は日本海側地域で、丹波国に属していたという。
優れた機織り技術を持つ漢氏(あやし)と秦氏(はたし)が住み着き、
朝廷に属する部曲として漢部(あやべ)となり、それが地名の由来となった。
糸にまつわる物語は以後、「グンゼ」が受け継ぎ、街の発展に大きく寄与した。
そのストーリーは、現在もなお紡がれている。

綾のまちをあるく

グンゼ記念館の主展示室。グンゼ創業者、羽多野鶴吉。

和でつむぐ綾のまち~古き良き町家

京都府、何鹿郡(現綾部市)に生まれた波多野鶴吉は、地場産業である蚕糸業振興と地域の発展のため「郡是製絲(ぐんぜせいし)」を創業。生糸の海外輸出を主目的に、様々な革新を行った。当時劣悪な環境にあった製糸業を「善い人が良い糸をつくる」という思いのもと、愛を持って人を育て工女たちを手厚くサポートするなど、人間尊重の経営を目指したという。一方で、「大本」は、平和な世界を目指し開教された民衆宗教で、ここ綾部に発祥した。地元では大本さんとして親しまれ、神苑や池泉庭園などが解放されている。綾部は、まったく異なる、この両者に支えられ発展を遂げた街だ。

綾部駅から少し歩くと南北に貫かれた、「グンゼ」と「大本」をつなぐ、大本通り商店街と西町アイタウンがある。江戸時代には、鳥羽から移封された九鬼藩の小さな城下町としても栄えた。明治、大正期の古き良き町家を再生利用した店や風情のある老舗旅館、料亭などが、今も残る。明治時代、この商店街は大層栄えた。仕事終わりのグンゼの工女さんたちが、化粧品や洋服を買ったり、取引に訪れた仲買人が料亭で商談をしたり、花街で遊んだりしたという。その当時の面影を求めて、商店街をぶらつくのも楽しいものだ。「大本」エリアの突き当たりには、青い橋梁がトレードマークの綾部大橋。由良川を望む先にみえる日本初の世界連邦都市宣言を記念した平和塔やダイナミックに連なる山並みも美しく、新たな感動をあたえてくれるはず。

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⒈「大本」は明治25年の開教。国の登録有形文化財に登録されている壮大な木造建築の「みろく殿」(事前予約)は、中央に一切の柱を配さない。奥には20世紀最大の木造建築物といわれる「長生殿」もある。2.美しく整備された神苑内は、紅葉の名所としても知られる存在。秋には地域をあげて行うもみじ祭りで、周辺はにぎわう。3.「木の花庵」は300年以上前の丹波地方の典型的な農家建造物として国の重要文化財に指定。当時の人々の暮らしをうかがい知ることができる貴重な資料として展示されている。

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4.創業は明治29年。本町通りの赤尾漢方薬局では、漢方をより身近に知ってもらおうと「医食同源」をテーマに、薬膳喫茶「悠々」を併設する。その日の体調や気分に合わせた漢方茶を処方してくれ、その場で飲むことができる。5.「この通りは、昔お城の上がり口だったのですよ。昭和の30年代は、買い物に来た工女さんで溢れていましたね。由良川沿いには、菊人形も飾られていて」と店主の赤尾明俊さんが話してくれた。赤尾さんは「もみじ祭り」を企画するなど、商店街の活性に尽力する。

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6.綾部駅の北口に位置する「グンゼ」は、近代蚕糸産業を支えた歴史的資料を数多く残し、グンゼ記念館、グンゼ博物宛として整備されている。記念館の主展示室では、創業からの歩みをみることができる。また平成26年5月には「あやべグンゼスクエア」がオープン。あやべ特産館や綾部バラ園も併設した新たな観光スポットとして、訪れる人を迎える交流拠点となっている。7.繭の毛羽を取る機械。生糸は当時、日本の重要輸出品だった。⒏昭和2年に綾部市の蚕糸関係者が、綾部の50年後の発展をイメージして作られた地図。9.創業者の波多野鶴吉(1858-1918)。創業は明治29年、38歳のとき。グンゼは、数々の困難にあいながらも、メリヤス肌着、ナイロン靴下事業への転換を行い、現在はプラスチックや電子部品の分野にも進出。2016年には創業120年を迎える。10.工女さんに向けた花嫁学校もあり、嫁入り道具として勤続6年で、この箪笥が謹呈されたそう。

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11.本町通りを二本それた路地にある月見町は、昔花街だった。芸妓さんも50人以上はいたとか。「あやべ町屋倶楽部」として再生する一方で、廃業する店も。「なんとか残して行きたいですね」と赤尾漢方薬局の赤尾さん。12.地元の商売人に愛される「綾部恵比須神社」は熊野新宮神社の境内にある。通称エビスさん。13.綾部市はお茶の栽培に適した気候風土で特に、由良川流域で栽培されるお茶は品質が良いという。そのほとんどが宇治茶としてブレンドされる。あやべグンゼスクエア内の「綾茶café」では、そんな綾部産の玉露やかぶせ茶がいただける。江戸時代末期から、丹波の松茸、鮎、大納言小豆と並んで、特産品としてお茶が栽培されていたという

特に、寒暖の差が激しい朝の日。雲海につつまれた綾部の山々は印象的だ。由良川河畔の盆地にあって、風光明媚な綾部の街は、昔から東西をつなぐ要所だけあってアクセスも良く、近頃は、そんな環境を求めIターンの若者たちも増えているのだとか。ぶらりと散策したり、のんびりと宿泊したり、はたまた住んでみたり… 色々な魅力を満喫できる場所に違いない。