響け恋の歌 野鳥と友達になる旅を

山と生きる

響け恋の歌 野鳥と友達になる旅を

落ち葉の道をふわふわゆくと、すぐそばでさえずりが聞こえます。
ピピピ、チチチ、ホホホケキョ‥かわいい声で「何しにきたの?」と言っている。谷からは、せせらぎの音がする。ふっとササユリの香りもしてきます。

京都の海が豊かなのは、森が豊かだからです。雨や雪は土にしみこみ、生き物のミネラルを蓄えて川へと流れ込む。その水が米を育て、みずみずしいフルーツもたわわに実るのです。

森は命の源流。

目を閉じて、鳥の声や風の音に耳を傾けてみませんか? きっと気づくはず。あなたも豊かな自然の一部だということに。

夜明けに響く恋の歌

夜明けに響く恋の歌
夜明けの大江山。恋の歌が湧き上がる

夜明け前の大江山。青く茂った森の中から無数のさえずりが湧いてくる。いったい何羽いるのだろう。椅子に腰掛けて目を閉じてみた。シジュウカラやホオジロなどの聞き覚えのある声だけではない。冒頭の写真(右下)で歌い続けるような美声を響かせるのはクロツグミ。キュロロロ・・・・という独特な鳴き声はアカショウビン(左上)。オオルリはさえずりも美しい(右上)。いずれも南国から営巣に来た渡り鳥たち。雌を探して恋の歌を響かせているのだ。カカカカカ・・・・・というのは木をつつく音。アオゲラ(左下)が木の幹をドラミングさせている。まるで野鳥が音楽会を開いているみたいだ。
※コラージュは、いずれも三木敏史さん撮影

加悦谷平野は鳥の楽園

加悦谷平野は鳥の楽園
野田川流域の加悦谷平野。山と水辺には多様な動物が暮らす

大江山連峰を見渡す与謝野町。町を貫流する野田川流域には加悦谷平野が広がる。川が運んだ肥沃な土で人々は米や野菜を育て、自分たちは山際の高台に家を建てて暮らしている。洪水による被害を最小限にしつつ、山の養分を作物に取り込んできたのだが、そんな環境は鳥にとっても有り難い。森林と水辺と湿地(田んぼ)が途切れることなく続く環境は、まさに楽園。町内では実に120種類もの鳥が確認されていて、近年は山を越えた兵庫県豊岡市からコウノトリもやってくる。ハヤブサやフクロウ、クマタカなどの猛禽類も暮らしているのだ。

日本は野鳥列島

日本は野鳥列島
天橋立の内湾では、ミサゴが大物を狙って狩りをしている=門脇玲子さん撮影

地元の人は知らないが、丹後半島には全国から野鳥好きが訪ねてくる。開発が進んだ太平洋側の山では見かけなくなった鳥たちに、ちょっと山に入るだけで簡単に出会えるからだ。さらに視野を広げると、欧米のバードウオッチャーにとっては日本の里山は野鳥の楽園のように見えるのだという。南北に長い日本列島は亜熱帯から亜寒帯まで幅広く、ちょうど本州の真ん中あたりにある丹後半島にはそれぞれの気候帯に住む鳥たちが子育てをしに渡ってくる。越冬に来る水鳥も多彩で、天橋立の内湾には海岸で無数の群れが羽を休める。世界に類を見ないほど多様な野鳥がいるのは、地球の生い立ちにも由来する。日本自然保護協会が発行する「自然保護」によると、海水面が下がって大陸と陸続きだった時代には多くの種が交流を広げ、列島が形作られてからは最終氷期に氷河に覆われなかったため独自の進化を遂げた結果、固有種が多くいる地域となったのだという。

宿泊者を森の音楽会へ

宿泊者を森の音楽会へ
さえずりに耳を澄ませる西原さん。右上はキレンジャク、右下はジョウビタキ

大江山のふもとにあるログハウス「もっく」で喫茶店を営んできた西原信明さんには早朝の楽しみがある。春に渡り鳥の飛来が始まると、携帯コンロとコーヒーセットを車に積んで近くの林道に入り、湯を沸かしながら耳を澄ませるのだ。「鳥たちが目覚める時間が一番にぎやか。サンコウチョウやアカショウビンの声がすると、『今年も無事に来れてよかったなぁ』と思う。森の世界にお邪魔して静かにコーヒーをすするのは至福の時間だよ」。2020年からは喫茶店をロッジにして宿泊の受け入れを始めた。夜、ロッジの中で耳を澄ませていると、裏山から「ホッホッ」とフクロウの声が聞こえてくる。

田んぼのカエルを狙うサシバ=西原さん撮影

田植えの時期になると、目の前の田んぼには猛禽類のサシバも現れる=写真。土を耕すトラクターの後ろに音もなく滑空してカエルを捕らえて飛び立つ姿は勇壮だ。
秋になると、アトリやジョウビタキなど冬の渡り鳥もやってくる。落葉広葉樹が紅葉して葉を落とすと鳥の姿も確認しやすくなる。

野鳥観察の希望があれば、宿泊予約の時に申し出を。西原さんが行きつけの森へと案内してくれる。電話は「里山ロッジ もっく」(0772-43-1334)。Facebookもある。

里山ロッジもっく

里山ロッジもっく

さえずりの正体を探そう

さえずりの正体を探そう

生い茂る木々中から鳥の姿を見つけるのは難しいが、手元にはスマホがある。インターネットで検索すれば、目の前で鳴く野鳥の正体を探し出すことができるのだ。

例えば、NPO法人バードリサーチのホームページ(HP)。「人と自然の共存」を目的に活動している団体で、日本列島に渡ってくる鳥たちの調査への協力も求めている。HPは初めての人でも分かりやすくできていて、野鳥の愛好家も愛用している。

バードリサーチのホームページ

鳥の名前で調べる

鳥の名前で調べる

山を歩いていて、鳴いている鳥の名前をガイドに教えてもらったとしよう。その時には、この下のリンク「鳴き声図鑑」をクリック。「鳴き声検索」のところに鳥の名前を入力すると、その鳥の写真が出てくる。鳴き声も再生されるから、目の前にいる鳴き声の主と聞き比べてみることができる。ちなみに「地鳴き」というのは、鳥が仲間に警戒を呼びかけたり、相手を威嚇する時の鳴き声。伸びのあるさえずりと違って短く、鋭い鳴き方が多い。

バードリサーチの鳴き声図鑑

場所や時期、声の特徴からも

場所や時期、声の特徴からも

何の鳥か見当がつかない時には「さえずりナビ」から「さえずり検索」へ(左画面)。自分がいる場所に照準を合わせて「生息種予想」をクリックすると、上のような画面(右)が出てくる。時期や場所、声の特徴など選んで検索をかけると、鳴き声の主と思われる候補が表示される。

鳴き声を聞き比べよう

鳴き声を聞き比べよう

例えば、5月の森林で声がしたのは樹上、鳴き声は高くてきれい・・・。そんな情報を入力した時に出てくる候補が上の左画面。それぞれの鳥をタップすると解説コーナーに入る(右画面)。渡り鳥であれば飛来してくる時期などの生態が分かる。声や見た目が似ている鳥も紹介してくれているから鳥の世界がさらに広がる。スクロールダウンすると「鳴き声一覧」があるので、スピーカーのマークを押すと鳴き声が再生される。

同会の植田睦之理事長は「鳴き声図鑑は多くの要望に応えるために作りました。多くの皆さんに鳥たちと友達になってもらいたいですね」と話す。他にも、サントリーが愛鳥活動の一環として開設している「日本の鳥百科」でも特徴や鳴き声で検索ができる。

バードリサーチ「さえずり検索」

野鳥がすむ森の生い立ち

野鳥がすむ森の生い立ち
豊かな里山は、手作りの森といえる

昔は、あなたの家の裏山でも美しいさえずりが聞こえたのだろう。都会では開発が進み、田舎の山は荒れていく。鳥たちが子育てできる森は年を追うごとに少なくなっていく中で、丹後は日本に残る野鳥の聖地といえるだろう。豊かな森はどうやって生まれるのか? 山を生きるコーナーの別稿「里山ブナ林が育てる生態系」で紹介したい。

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