京都の海で育つ人

海と生きる

京都の海で育つ人

 海に桟橋が伸び、船が停泊する。まるで漁港のような風景が、「海の京都」(京都府北部)の学校にある。宮津市上司の京都府立海洋高校。京都の海を学びの場とし、海のスペシャリストを育む。水産や食、観光などの様々な分野へ人材を輩出するとともに、京都の魚を活用した名物商品を生み出し、地域で存在感を示している。

近畿唯一の水産・海洋系単独高校

近畿唯一の水産・海洋系単独高校

 近畿地方で唯一の水産・海洋系単独高校。歴史は古く、1898(明治31)年に「京都府水産講習所」として設立認可されたのが始まりで、「宮津水産学校」「水産高校」を経て、1989(平成元)年に今の校名となった。水産講習所の頃からの卒業生は8239人に上る。

 独自性の高い学校であるため、生徒の半分近くは府北部以外の地域からも入学(在籍)するのが特徴。2021年11月16日現在で258人の生徒が在籍する。1年生は全員が「海洋学科群」。2年生からは希望進路や適性に応じて、進学や公務員を目指す「海洋科学科」、船舶の運用と海洋開発に関する「海洋工学科」、水産資源の管理や活用を学ぶ「海洋資源科」に分かれる。

舞鶴港のサバを加工

舞鶴港のサバを加工

 海洋資源科の「食品経済コース」は実習の授業でサバ缶を作る。舞鶴港で水揚げされたサバを使い、生徒は次々とさばいて手際良く調理する。

 代々、受け継がれてきたレシピがあり、国産サバのサバ缶で発生しやすいカード(タンパク質の固まり)を抑制する工夫などが盛り込まれている。「国産サバの国内加工」を前提としているため、国内でサバの水揚げが低迷した時期にはレシピ消滅の危機もあった。国産サバが入手できずレシピが使えなくなり、忘れ去られそうになったが、サバの水揚げ回復後、残された記録を頼りに再現することに成功した。

〝伝統のサバ缶〟を商品化

〝伝統のサバ缶〟を商品化

 まさに〝伝統のサバ缶〟。地域で親しまれてきた人気商品だが製造量に限りがあるため、学校や地域のイベントで販売してもすぐに売り切れていた。そこで、より多くの人に味わってもらおうと2017年に商品化したのが「京の鯖」。福井県の缶詰業者に製造を外注することで生産量を増やした。海洋高のレシピが忠実に再現されている。

 地元の土産物店や道の駅などで販売されており、地域の新たな名物となった。

京都の魚でラーメン

京都の魚でラーメン

 海洋高のもう一つの代表作といえるのが「ブイヤベースラーメン」だろう。京都の魚を使ってフランス・マルセイユの名物として知られるブイヤベースをラーメンにアレンジしたもので、全国の高校生がオリジナルのご当地グルメを競う「ご当地! 絶品うまいもん甲子園」で2015年に準優勝を果たした逸品だ。

 開発のきっかけは漁業実習。小さな魚や商品価値の低い魚は漁獲しても廃棄せざるを得ないケースがあり、生徒から「何とかできないか」と声が上がった。活用方法を模索する中でたどり着いたのが、魚介のうまみが生かせるスープ。元宝ケ池プリンスホテル総料理長の神田正幸シェフから指導を受けながら、魚をトマトや香味野菜と煮込むブイヤベース仕立てのラーメンができ上った。

 月1~2回程度(新型コロナウイルスの感染拡大前で)、生徒が学校内外で営業する「高校生レストラン」の人気メニューになっている。

 また、地元の飲食店などでもメニュー化されるようになり、提供店が一堂に集まるイベント「ブイヤベースラーメンサミット」が開かれたこともある。

地域と関わり成長

 こうした商品開発のほか、地元と連携したホンモロコの養殖や給食用の魚の加工、実習での漁獲物を販売する「海洋市場」などもあり、生徒は地域と密接に関わりながら成長し、地元で貴重な人材となる。

サバ缶を作る田中さん

 食品経済コースで学ぶ3年生の田中海成さんは卒業後、伊根町の旅館に就職する。出身は京丹後市網野町。小学生の頃はすし職人に憧れ、中学生で将来は料理人になることを決意し、海洋高に入学した。来年春には夢へ向かって一歩、踏み出す。

地元で卒業生が活躍

 卒業生が活躍する職場の一つが、鮮魚店の㈱やまいち(宮津市溝尻)。現在、4人の卒業生が働いており、海洋高とのコラボ商品も展開する。

自家製へしこで共同開発した商品

自家製へしこで共同開発した商品

 コラボ商品は「サバへしこ焼フレーク」。魚をぬか漬けにした地元の伝統食「へしこ」を手軽に味わってもらおうと共同開発した。

 同社の自家製へしこは地域内外でファンを獲得しているが、都市部などから「煙が気になり焼きづらい」といった声が寄せられていたため要望に応えられる商品として考案した。

 時間をかけてフレーク状になるまで丁寧に焼き上げ、全ての工程を手作業で仕上げる。へしこのおいしさを凝縮し、ご飯のおかずやおにぎり、パスタ、チャーハンなどにそのまま使える。同社の人気商品の一つだ。

魚や地域への愛情

魚や地域への愛情
大槻さん(右)と西村さん

 海洋高卒業生のうち、2人の若手に話を聴いた。

 主に接客業務を担当する大槻きよかさんは、入社6年目。在学中に接客の仕事に興味を持ち、先生の進めや学校の先輩がいたこともあって、やまいちへの就職を希望したという。元々、海や魚が好きで海洋高に進学したこともあって仕事は楽しく、「商品のことをもっとしっかりと伝えられるようになりたい」と意欲を見せる。

 魚の加工などを担当する西村洸輝さんは、実習や体験で実践的な能力を身につけようと海洋高に進学。卒業後、「学んだことを生かしたい」という思いで2018年に入社した。在学中から数多くの魚を扱ってきたが、魚をさばく技術は奥が深く、「もっと上手になりたい」と向上心を持ち仕事に臨む。

 「地元の魚のことを知ってもらいたい」と口をそろえる2人から感じたのは、海洋高で育んだ魚や地域への愛情。職場では「しっかりとした魚の知識がある」と評価されており、「好きこそ物の上手なれ」という言葉が頭をよぎった。こうした人材を育成できるのが海洋高の強みであり、豊かな自然がある海の京都の魅力だろう。

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