こだわりの味 伊根、宮津の「ぶりしゃぶ」

海と生きる

こだわりの味 伊根、宮津の「ぶりしゃぶ」

 冬の丹後の味覚と言えば多くの人が「ズワイガニ」と答えるだろう。確かに冬場は多くの人がズワイガニを目指し、丹後地方を訪れる。しかし、丹後の冬の味覚はカニだけではない。近年、カニとともに人気が高まりつつあるのがブリだ。京都府伊根町は「日本三大ブリ漁場」の一つ。伊根産のブリを出汁でさっと火を通し、あっさりとポン酢で食べる「ぶりしゃぶ」は、伊根や宮津の名物料理となっている。

ブリは伊根の縁起物

ブリは伊根の縁起物
鍵屋の食堂から見た伊根湾の景色

 伊根町亀島の「舟屋の宿 鍵屋」は2009年の開業。大正時代に建てられた舟屋を改装した1日1組限定の一棟貸しの宿だ。1階が食堂とリビング、2階が寝室となっており、食堂は船を係留していた場所を改装したため、窓からは伊根湾越しに対岸の舟屋群が眺められ、宿泊客の多くはその景色に感嘆の声を上げる。

 代表の鍵賢吾さんによると、伊根ではブリは縁起物とされ、正月には欠かせない食べ物だったという。成長によって名前が変わる出世魚のため、ブリを使った鍋を「出世鍋」と呼び、どこの家庭でも正月に食べた。
 出世鍋はすき焼きのような「沖すき」風や水炊き風など各家庭によって味付けは様々だが、「ぶりしゃぶのようにして食べる家庭も多かったのでは」という。

薄い切り身にこだわり

薄い切り身にこだわり
鍵屋では薄い切り身での提供を心掛けている

 鍵屋では開業当時から冬場にこだわりのぶりしゃぶを提供してきた。まずこだわるのはブリの大きさ。最近は6、7㌔のものでもブリと呼ぶが、鍵屋では天然、養殖を問わず8㌔以上のブリを仕入れる。小さなブリと大きなブリでは脂ののり方が違うからだ。
 提供する期間は11月中旬から2月末くらいまで。鍵さんによると旬を外れたブリは食べると酸味を感じるため、味見をして酸味がなくなればぶりしゃぶを始め、酸味が出てくれば提供をやめることにしており、提供期間は厳密に定めていない。
 ブリの身の厚みにもこだわる。鍵さんは薄い身の方がおいしく食べられると考えており、約2ミリの厚さで提供。この厚さは火が通りやすく余分な脂も落ちやすいため、胃もたれしにくく飽きることなく食べられる。

鍵屋の食堂でぶりしゃぶを楽しむ宿泊客

 しかし、豪華に見えることと、レアで食べられることから厚切りで提供する店もある。鍵さんは厚みは各店の好みとしながらも「薄切りなら、レアで食べたい人は、2、3切れ一度にしゃぶしゃぶすればいいし、鍋に入れている野菜を巻いて食べることも可能で、おいしく食べられる」と、薄切りのぶりしゃぶにこだわる。だしはあっさりと昆布だしにし、ポン酢は酢を使用せず、柑橘類の果汁で酸味を出した自家製だ。
 鍵さんは「冬の丹後と言えばカニのイメージが強いが、ブリのおいしさを多くの人に知ってもらいたい」と、よりおいしくなるよう努力を続けており、ぶりしゃぶを目的に鍵屋に宿泊するリピーターも多い。

鍵屋のサイト

ビールのCMで知名度アップ

ビールのCMで知名度アップ
茶六別館

 宮津では1978年、宮津天橋立観光旅館協同組合青年部が、カニに負けない冬の名物をーと、寒ぶりを使ったぶりしゃぶを考案(諸説あり)、加盟旅館が「寒鰤・出世鍋」の名前で提供を始めた。同年から、ぶりしゃぶを提供し続けている宿の一つが、宮津市島崎の「茶六別館」。
 当初、宮津天橋立の旅館では大鍋で提供し、大勢が車座で食べるスタイルだったが、ニーズは今ほど高くなかったという。そこで、会席料理の中の一品として一人前ずつ小鍋で出したところ、食べる機会のなかった人も食べるようになり、大鍋での注文も増えてきたという。名前も、わかりやすい「ぶりしゃぶ」が、徐々に広まっていった。
 そして、2007年に、大手ビールメーカーのコマーシャルで、ぶりしゃぶが取り上げられ、ぶりしゃぶの知名度が一気に上がった。
 

大根おろしであっさりと

大根おろしであっさりと

 茶六別館のぶりしゃぶの特徴は、昆布出汁に大根おろしを入れた「雪見鍋」で提供すること。ブリは、均一に火が通るよう、2~3ミリの薄切りにこだわっている。「ブリは、火の通り具合で味が変わってくるので、お好みの加減を見つけて下さい」と女将の茶谷環さん。薄切りのブリの身は、ほどよく大根おろしをまとい、柑橘類の果汁に出汁などを合わせた、自家製ポン酢で食べることで、よりあっさりと味わえる。

 しめは雑炊。茶谷さんは、「ブリ雑炊は初めて、とおっしゃる方も多いのですが、かつお出汁ではなく、昆布出汁に大根おろしを入れているので、意外とあっさり召し上がれるんですよ。ブリの旨味も出ていますし。おなかいっぱいだけど食べてしまった、と言われる方も」と好評だそう。
 茶六別館では、ぶりしゃぶのおいしさを味わってもらおうと、冬季宿泊客の懐石料理の中に、ぶりしゃぶの小鍋を入れている。また、ぶりしゃぶ大鍋がメインのブリづくしプランの提供や、かにづくし会席でも事前に申し込めば、かにすきをぶりしゃぶへ変更することもできる。茶谷さんによると、かにづくし会席で鍋はぶりしゃぶ、というリピーターもいるという。また、併設の食事処「四季膳花の」では日帰りでぶりしゃぶを楽しむこともできる。

茶六別館のサイト

伊根は日本海側唯一のブリ養殖地

伊根は日本海側唯一のブリ養殖地
伊根ブリを生け簀から揚げる橋本さん

 日本三大ブリ漁場は、富山県の氷見、長崎県の五島列島、そして伊根町だ。北海道周辺で夏を過ごし、脂をたっぷり蓄えたブリは晩秋に五島列島周辺を目指して日本海を南下する。氷見、伊根はともにこのルート上にあり、おいしいブリが水揚げされる。
 一方で伊根湾はブリの養殖も盛んだ。日本海側でブリの養殖が行われているのは伊根湾だけで、養殖されたブリは伊根や宮津でぶりしゃぶとして提供されるほか、京阪神にも出荷されている。
 日本海側で唯一、養殖が行われている理由は地理的条件。伊根湾はその入り組んだ地形のおかげで波の影響が少ない。湾の出入り口にある青島が天然の防波堤の役割を果たすため、日本海が荒れていても湾内は穏やかだ。このため、波によっていけすが壊れたり流されたりする心配がなく、養殖しやすい条件が整っている。
 伊根町亀島にある㈱橋本水産の橋本弘社長は湾内でブリを始めマダイやイワガキ、カンパチを養殖する家業を継いだ3代目。試行錯誤しながら自社のブリを「伊根ブリ」としてブランド化するなど、伊根の水産業の振興に尽力している。
 伊根ブリは天然ものにも負けないと評され、冬場は京阪神の料亭からも多くの注文が来る。漁獲量や時期によっては天然ブリよりも高価になるが、それでも伊根ブリを求める業者は多いという。
 伊根ブリの特徴はまず、ストレスを掛けないよう広い場所で養殖すること。橋本水産のいけすは10メートル四方で深さは8メートル。通常ならこの大きさのいけすでは3千~4千匹が養殖されるが、同社では約1千匹に抑える。こうすることでストレスがかからず、引き締まった身のブリになる。
 味を良くするには養殖環境とともに餌も大事。若狭産沖のサバやアジ、イワシを冷凍加工した餌を2日に1回食べさせる。その餌代は1回40万~60万円にもなるという。しかし、良い餌を与えることが臭みのない脂ののったおいしいブリを育てる秘けつのため、餌代を惜しむわけにはいかないという。

「INE CAFE」の伊根ぶり丼

 橋本水産のブリは鍵屋のほか、橋本さんと鍵さんが経営に関わる同町平田の観光交流施設「舟屋日和」内のINE CAFEで伊根ぶり丼として提供。この丼は鍵屋で出しているすしをアレンジしたもの。ご飯の上にブリの刺し身を載せ、しょうゆを使わず、味付けはゆずこしょうと塩、ユズの果汁だけ。臭みのない橋本水産のブリだからこそ作ることのできる料理だ。
 橋本さんは今の養殖方法にはまだ満足しておらず、これからもよりおいしいブリが育てられるよう努力と工夫を重ね研さんしていきたいと話している。

橋本水産のサイト

舟屋日和のサイト

伊根町内での鰤料理提供店について

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