うまいものは自ら作る 猟師という生き方 〜幸をつくる人々vol.2〜

山と生きる

うまいものは自ら作る 猟師という生き方 〜幸をつくる人々vol.2〜

舞鶴市西方寺で獣肉処理施設「寒山(かんざん)」と農家民宿「拾得(じっとく)」を営む猟師、清水祐輔さん(36)。狩猟、食肉解体・加工、宿経営のほか、田んぼや畑、川での漁や木こりも営む。単に猟師と呼ぶにはあまりにも多彩な日常だ。

できるだけ食やエネルギーを自給することを目指しているという清水さんがそのライフスタイルに見出した価値とは。

農業をきっかけに狩猟の道へ

農業をきっかけに狩猟の道へ

家族や親戚に自営業が多かったこともあり、清水さんにはサラリーマンになるイメージはなかった。しかし特にやりたいこともなかったため、自分の中で比較的イメージが良かった農業を仕事に選んだ。

就農フェアをきっかけに岐阜県の農家で働き始めたとき、目の当たりにしたのが獣害だった。田畑の被害を減らすため、わな猟師の免許をとったことが狩猟との出会い。

農作物を守るために始めたものだったが、意外と飽きず、むしろ農業よりも夢中になっていった。

その後、京都に戻り、園部町(南丹市)で師匠について狩猟や食肉の解体を学び、結婚を機に舞鶴市西方寺に移住。2人目の子どもが生まれたのをきっかけに独立し、寒山拾得を開業した。

【参加募集】F.E.E. 山を知り、鹿を味わう。罠猟師の狩猟&ジビエBBQ

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ライフスタイルとしての猟師

「狩猟は好きで、ずっとやってこられた。今年で10年」

清水さんが狩猟の面白さを感じるのは、自分が予想を立てて行動したことが結果につながった時だ。

「未知とか未来に対して、自分の予想が当たる感じがたまらない」
「しかもそれが数日間から数週間の短い期間で結果が出るのがまたよい」

「未知の世界である自然と、自分の人間としての想像力がかち合って、一応都合がついたということで獣がかかる。認められた感じというか、常に自分を肯定される感じがある。農業と比べても、獲れたありがたさをより強く感じやすい気もする」

わな猟に使用するくくりわなの仕掛け

狩猟において数を求めることはしない。一匹一匹の獣に丁寧に向き合えなくなるような気がするからだ。

「捕獲量を増やすには個人では限界があり、人を雇って多くの獲物を捕らえたとしても、自然の許容量を超えることがある気がして、自分の狩猟スタイルには合わない」

したがって、数を増やすのではなく狩猟の価値を高めることに取り組んだ。肉の質を上げたり、加工品として提供したりもするが、それらも含めたライフスタイルを見てもらうことで最も価値が感じてもらえるではないかと清水さんは考える。

そんな考えが、狩猟と里山の暮らしを体感できる寒山拾得のスタイルを作っていった。

猟師の目線になって仕掛けたわなを探す体験

ジビエの美味しさ

ジビエの美味しさ

獣肉解体施設「寒山」では、清水さんがわな猟で獲った猪や鹿を解体し、食肉として加工している。

ジビエは栄養価も高く、脂がくどくないのが魅力だ。猪や鹿などのジビエは、牛や豚と比べ不飽和脂肪酸が多く、人体になじみやすい脂質なのだと教えてくれた。

「人間は年を重ねると脂を溶かす力が弱くなってくるので、肉を食べるともたれやすい。しかしジビエなら体に負担をかけにくく、ぺろっと食べられる」

美味しい肉にするためにはあらゆる工程の積み重ねが必要だ。わなの設置場所による捕獲状況を想定するところから始まり、捕獲方法、放血、解体、枝枯らし(熟成)、精肉、調理など、口に入るまでのあらゆる過程で「美味しさ」が積み重ねられていく。

狩猟者としては、獲物にストレスを与えないような捕獲と適切な放血、スピーディな解体を行い、山の肉屋としては、ポテンシャルの高い食材となるように、トリミングやカットなどの精肉作業も行う。中でも重要視しているのは枝肉(剥皮と内臓除去した状態)での「枯らし」。熟成庫にぶら下げて水分調整を行う工程のことだ。

鹿肉のロース

鹿肉はそのままでは水っぽくてあまり味がないのだが、枝枯らしを経ることで大きく変化する。10日目くらいで味の輪郭がくっきりし、水分が適度に抜け、たんぱく質の酵素分解によってアミノ酸が増加し、それに伴い質感の変化もはっきりと現れる。ロースは赤身の魚肉に近いようなねっとりとした質感で、モモはむっちりとした質感が際立つ。枝枯らしによって「滋味(※)」という言葉に相応しい味わいになる。

※栄養があって味のいいこと。

昔ながらの暮らしがある宿

昔ながらの暮らしがある宿

清水さん夫婦が営む農家民宿「拾得」には、食やエネルギーの多くを自給する昔ながらの暮らしの姿がある。

「生活や暮らしを自分たちで作っていくことや昔ながらのことは好きだった」という清水さん。
「今では手放してしまったけど、昔はみんながやっていたことに価値を感じる人は少なくないと思う。例えば、かまどで飯を炊いたり、山でとってきた物を食べたり」

しかし、昔ながらの暮らしに魅力を感じても、便利な生活に慣れてしまった私たちにとってその実践は難しい。だからこそ「拾得」には不思議と惹きつけられるような魅力を感じるのかもしれない。

清水さんの暮らしには身近な存在として妻の兄の影響もある。義兄は自分で建てた家で暮らしており、天ぷら油で走る車に乗ったり、廃材の太陽光パネルで電気を自給したりと、自給自足生活のお手本のような人だ。自分たちの暮らしは自分たちで作ることができるという清水さんの考えは義兄の影響からも培われたものなのだろう。実際に民宿の2階や獣肉解体施設は義兄と一緒に作ったそうだ。

「拾得」では清水さん達のライフスタイルがそのまま体験ができる。狩猟、木こり、田んぼ、畑、漁猟、薪割り、保存食作り、野草料理などさまざま。

「せっかくなら2泊3日ぐらいしてほしい。1泊だととてもこの暮らしの魅力を伝え切れないから」

ぜひ濃密な里山の暮らしをこちらで体感してもらいたい。

自分のために手を動かす贅沢

「寒山拾得」という屋号の由来は、中国の伝説に登場する2人の詩僧「寒山」と「拾得」だ。俗世の権威主義や価値観を否定し、それにわずらわされない彼らの姿勢が好きで、屋号に使うことにした。

「世の中をひねくれて見ていたりもする。普段は特に思わないが、現代社会へのアンチテーゼとして田舎暮らしの古めかしい生活している部分もある」

高級な牛肉を食べるには多くのお金が必要で、そのお金を得るために働くという私たちにとって当たり前に感じることも清水さんから見れば遠回りだ。もっといいもの、うまいものあるだという。それは、自分で獲った肉だったり、養蜂することだったり、魚をとることだったりする。自分のために手を動かすことが、実は最も価値があって贅沢なことなのだと教えてくれた。

「面倒くさそうに見えるかもしれない。だけど、みんなある意味で面倒なことをするために趣味を持っているのではないか」という清水さん。

「プラモデルを作ったり、自転車を改造して長い距離を走ったり。自分の場合はその趣味の方向性が腹を満たす方だった。どうせだったら食べられた方がおもしろい、食べ物を作ることはおもしろい。この土地に潤沢にある食材は肉だから、それでなにかできたらと思っている」

まだ見ぬうまいものを求めて

まだ見ぬうまいものを求めて

今後は食肉加工に関する許可も取りたいという清水さん。最近は、肉と麹を掛け合わせた商品を作れないかと考えているそうだ。

「麹というアイテムが手元に潤沢にあればもっといろいろできると思う。麹は昔から日本人の食卓には不可欠なもの。もともと肉食は日本にはなかったので、肉と麹の組み合わせはフロンティアだと思う。研究しがいもあるだろうし、まだ見ぬうまいものがある気もする」

自分が喜ぶためのものを自分で作る。その味には嘘がないはずだ。

清水さんはこれからも「うまいもん」を作るために研究を重ねていく。
その研究成果のお裾分けが楽しみだ。

【参加募集】F.E.E. 山を知り、鹿を味わう。罠猟師の狩猟&ジビエBBQ

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