和歌の歌枕にもなっている天橋立は古来より都人の憧れの地。江戸時代に庶民が旅をするようになると、全国から多くの人が天橋立の地を訪れた。安芸の宮島、陸前の松島とともに日本三景の一つに数えられ、国内有数の景勝地として認められた。

　名勝とは、文化財保護法における文化財の種類の一つ。

　同法で定められた記念物のうち「庭園や橋りょう、峡谷、海浜、山岳そのほかの名勝地で、我が国にとって芸術上、または観賞上価値の高いもの」とされており、文部科学大臣が指定した特に重要なものを指す。天橋立は1922（大正11）年３月８日、史蹟名勝天然紀念物保存法により名勝に指定された。

　また、名勝の中でも特に価値が高いものを「特別名勝」とする。天橋立は戦後間もない1952（昭和27）年11月22日、文化財保護法に基づいて特別名勝に指定。世界遺産にも登録されている物件など著名な景勝地が指定されており、現在、特別名勝は全国でわずか36件。日本の国土美を表現する名勝の中でも高い評価を受けている。

　天橋立が日本の宝として認められ100年、70年の節目を迎えた今年。市や地元事業者らは旅行割引キャンペーンやインスタグラムなどＳＮＳを活用した様々なキャンペーンも展開し、次世代につなぐとともに、世界遺産登録に向けて一層、機運を高める。

　天橋立の砂浜などで打ち上げられる記念花火は７月から始めた。日曜など休日夜、文珠、府中、宮津の３地区で午後８時半から約５分間、75発の花火を打ち上げており、市民や観光客らが頭上に迫る花火を満喫している。10月16日まで。

　９月21日には、記念事業のモノオペラ「ガラシャ」を天橋立公園で上演する。戦国武将・明智光秀の娘で宮津にゆかりのある細川ガラシャを題材にしたオペラで、舞鶴市出身のソプラノ歌手・田中彩子さんが主演、プロデュースを務める。

　モノオペラでは、関ケ原の戦いを前に西軍を率いた石田三成の兵に囲まれたガラシャが命を落とす悲劇を描く。舞台は松並木前の砂浜に組み、オペラと能楽の要素を合わせた〝和〟と〝洋〟が織りなす幻想的な演出が特徴だ。

　次の70年、そして次の100年へ―。

　美しい天橋立を次世代に継承しながら、新しい世代にも支持される観光地づくりが進んでいる。自然美を生かした体験観光を推進する天橋立アクティビティセンターの多賀雄介さんを訪ねた。

　―今、取り組んでいることは。
　アクティビティーや体験プログラムで、現地に来てから楽しめるコンテンツづくりに力を入れています。天橋立周辺の海を活用したマリンアクティビティーで、シーカヤックやＳＵＰ（サップ）の体験、朝釣りなどです。

　このほか、「天橋立プラスワン」のプログラムとして日本の滝百選にも選ばれている「金引の滝」に着目した滝行体験を用意しており、今年は全国で人気の「テントサウナ」も始める予定です。
　旅の目的になれるようなコンテンツをつくり、今までの見るだけの観光から体験して楽しむ滞在型観光への転換を目指しています。訪れた方が現地の人間と触れ合う交流型の観光地にしていきたいですね。
―観光客の反応はどうですか。
　少しずつですが宣伝もうまくいっていて利用者は増えています。朝釣りやカヤックの予約をしてから宿を選ぶ人もいてリピーターが増えてきました。
　コロナ禍では自然を求める観光客から好評を得ています。また、マリンアクティビティーを、同じ時間帯に１グループのみが参加しての実施としたことも人気の要因です。

―天橋立は歴史的価値のある観光地です。
　大自然の中で楽しむアクティビティーも魅力の一つですが、歴史や文化的な魅力を持つ史跡のガイドツアーも始めています。
　最近では府中地区の元伊勢籠神社の案内に特化した「眞名井原案内人」というガイドツアーを企画しました。籠神社とその奥宮の眞名井神社を巡るツアーで、神社検定の試験に合格した市内唯一のガイドが案内します。「歴史をもう一度聞きたい」とツアーに参加するリピーターもいて驚いています。
　名勝に選定されてから100年ですが、天橋立の歴史はさらにもっと遡ります。文珠地区には創建1300年の寺や神社があり、眞名井神社に至っては約２千年前という神代の時代からの歴史があります。こうしたほかの地域にはない古い歴史は天橋立の大きな魅力の一つです。今後は多くの人に知ってもらうことが重要だと思っています。