昭和40年代に宮津湾の埋め立てが進むまで店の裏は海だった。近くに魚の荷上場があり、周りの路地には今も天ぷらやかまぼこを含めて8軒の練り物店が固まっている。勝一さんは「みんな手押し車に山盛りのイワシを載せて店に運んでいたなぁ」と懐かしむ。
その昔、宮津湾には海が黒くなるほどイワシの群れが押し寄せた。しかし、大量に獲れても当時はまだ車はない。遠くに出荷はできないから、イワシを加工して売ろうと発展したのが練り製品だ。
イワシのすり身を混ぜたちくわは黒っぽくなる。だから、宮津のちくわは「黒ちくわ」とも呼ばれる。カネヒロでは今も近海でとれる旬の魚を使っている。「イワシをはじめトビウオやキス、ハモやコノシロなどですね。旬の魚は脂がのっているから、鍋や味噌汁に入れると旨みが増しますよ」と太一さん。すり身に塩と砂糖と片栗粉などを練り込んで、らせん状に巻き付ける。それを機械にかけ、真っ赤な火床の上をコロコロと転がしながら焼いていく。表面が焦げる寸前を見極めるのは職人技だ。
ちくわを焼き終わるのは午前4時半。カシャンカシャンという音がやむと、袋詰めが始まる。片付けとあすの仕込みを終えたら、ひとやすみだ。勝一さんは「変わらぬ時間に変わらぬ味のちくわを作る。それが宮津の食文化を守る道だ」と話す。
できたてのちくわを食べたい人は前日午後4時までにカネヒロ(0772・22・2987)に予約を。ただし早朝限定。当日午前6時ごろには近くの宮津市食品卸売センター(朝市)で買うこともできる。定休日は日曜・祝日。
アクセスは自転車がベスト。天橋立の波打ち際で日の出を眺めながら、できたてのちくわをほおばる旅はいかが?
持って帰ってからでも、アルミホイルに包んでオーブントースターで温めるとできたてに近づけることもできる。宮津のスーパーには他にも地元で作った練り製品がたくさん並んでいる。お土産にお勧めです。