山海の幸を薪火で調理 京丹後の名店「縄屋」に迫る

まちと文化

山海の幸を薪火で調理 京丹後の名店「縄屋」に迫る

 京都府北部の丹後半島内陸部に位置する京丹後市弥栄町。丹後地域の田畑を潤す竹野川が流れ、東部には山地が広がる。変化に富んだ地形から大規模な森林公園を有し、多彩な農作物を生むエリアだ。また、観光スポットとなっているフルーツ農園や西日本最大級の道の駅、温泉、酒蔵なども。

 そんな自然を生かした地域資源があふれる弥栄町に、国内外のグルメ客が集まる店がある。

 「魚菜料理 縄屋」。厳選した山海の幸を薪(まき)の火で調理する話題の日本料理店だ。薪火料理で食材のおいしさを最大限に引き出す海の京都エリアの名店に迫った。

和久傳で修業した吉岡さん 古里に戻り開業

和久傳で修業した吉岡さん 古里に戻り開業
集落に溶け込み、隠れ家的な雰囲気が漂う「縄屋」の入り口

 縄屋には大きな看板もなく、静かな集落に溶け込んでいる。店主は同町出身の和食料理人、吉岡幸宣さん。2006年、生まれ育ったまちに戻り、開業した。

 吉岡さんは地元の高校卒業後、すぐに和食の道へと進んだ。家業が仕出し店だったこともあり、長男の吉岡さんが調理師になることは、自然なことだった。

 最初の修業先は大阪のホテル。その後、ホテルが紹介してくれた京都市内の日本料理店に移った。更に、独立開業するまでは料亭「和久傳」のちゅう房に入り約5年半、腕を磨いた。

 家業の仕出し店は母が独りで切り盛りしていた。吉岡さんが26歳で古里に戻り、自分の店を開けたのはそんな母を助けるためだった。

全国の食通が集う店に

全国の食通が集う店に
丹後のアマダイを使用したうろこ焼き。玄米のソースをそえて

 〝京〟の名店、和久傳仕込みの腕前はたちまち食通の知るところとなり、当初から近隣を始め、全国の食通が集まった。

 店で使う食材の魚介類は丹後で水揚げされたものが中心だが、全国にいる知人の漁師や鮮魚店からも旬の魚を仕入れている。

 野菜は自家菜園のものや地元の農家が丹精込めて育てた有機野菜を使用。吉岡さんが自ら山に入って収穫したキノコや山菜なども食材にしている。

おいしさを追求 薪火の料理に注力

おいしさを追求 薪火の料理に注力
カウンターに立つ吉岡さん

 2020年には店を改装し、リニューアルを図る。薪の炎を熱源にした調理を主とするためだ。

 「おいしさを追求した結果」と話す吉岡さん。ちゅう房には特注の薪窯を入れ、店内の排煙を徹底。ちゅう房との目隠しには天井に使っていた煤(すす)竹を再利用し、風通しを良くした。

 客席はカウンター席(10人)のみに絞った。壁や天井には和紙アーティストが手掛けた真っ白な和紙をあしらい、店の歴史も感じられる凛とした空間となっている。

薪の炎。吉岡さんは「目に見える火のエネルギーが食材に伝わり、おいしさを生む」と話す

 「目に見えるエネルギーが食材に伝わり、おいしさを生む」。吉岡さんは、薪火料理にこだわる理由をそう話す。

 屋内で作った料理に比べ、屋外の焚火などで調理した料理がおいしく感じることは多い。それはガスや電気にはない目に見える炎のエネルギーが直接食材に伝わっているからだという。「火の力が食材に移り、調理してくれている。それが一番のおいしさにつながっているようです」

新しい料理に挑戦し続ける

新しい料理に挑戦し続ける
料理について話す吉岡さん

 食材が持つおいしさを引き出す吉岡さんの薪火料理は話題を呼び、雑誌などメディアの取材が絶えない。海外の食通も足を運ぶようになった今、吉岡さんに現在の心境や今後の展望をうかがった。

 ―現在、全国から来られている状況についていかがですか?

 うれしいです。いろんな評価はあると思いますが、大手グルメサイトでの評価や雑誌などを見て来店される方も多いです。一方で開業当初から足を運んで頂いている地元のお客様もいて、ありがたいです。

スズキのこぶじめ(コース料理の一例)

 ―今、取り組んでいることはありますか。

 新しい料理に取り組み続けています。最近は、2種類の魚を組み合わせた料理に取り組んでいます。同じ器に盛った2種類の魚を一度に食べてもらう試みです。

 ―具体的に聞かせてください。

 それぞれの魚を食べるのではなく、2つの魚を組み合わせて一緒に食べると、口の中では違う魚に感じるようなイメージです。「新しい魚をつくる」ということを目指しており、他店では味わうことができない料理だと思います。

 現在、地球の温暖化など何が原因か分かりませんが、食材となる魚や野菜が獲れたり獲れなかったりと毎年状況が変わります。それを日々、向き合いアジャストしながら取り組まないと、おいしい料理はできないと思っています。

やりたい料理を淡々と

やりたい料理を淡々と
自然光が差し込み、木の温もりが感じられる店内

 ―のどかな京丹後市弥栄町に日本全国や海外からもお客さんが来ています。今後、どんな店を目指しますか?

 私のやりたい料理を淡々とやり続けるだけです。それでお客さんが来てくれる間は頑張って店を開けようと思っています。目標などは特にありません。家族やお客さんら私の周りの人が幸せであれば、私は十分です。

富士酢醸造元、飯尾醸造の飯尾さんに縄屋の魅力を聞く

富士酢醸造元、飯尾醸造の飯尾さんに縄屋の魅力を聞く
「富士酢」を造る飯尾醸造五代目当主の飯尾さん

 縄屋の魅力について、国内外の著名な飲食店が重宝する「富士酢」の醸造元、㈱飯尾醸造(宮津市小田宿野)の五代目当主、飯尾彰浩さんにお話をうかがった。

 ―縄屋と飯尾さんとのつながりを教えてください。そしてどんなシーンで来店、利用されていますか?

 オープンされてから2、3年後に初めて伺って以来、年に数回、通っています。食関連のメディア取材を受ける際に「せっかく丹後までいらっしゃるならぜひ縄屋をご一緒しましょう」と理由をつけて伺っています。あとは全国から友人や知人が来てくれる際も一番に空きを確認するお店です。

「唯一無二の料理」

「唯一無二の料理」
すっぽんと野菜の炊き合わせ(コース料理の一例)

 ―縄屋の魅力について教えてください。

 一言で表現するなら唯一無二です。吉岡さんという料理人のセンスと技術、丹後の土地、そして新たに加わった武器である薪の3つの掛け算の料理は、誰も真似することができません。

 ―特筆すべき点はどんなところですか?

 目を閉じて一口食べただけで縄屋の料理だと感じられるほどの独創性がありながらも、懐石料理の枠からはみ出さないところでしょうか。また、料理だけでなく器や空間、音に至るまで「静寂の美」にあふれています。

丹後の食の魅力高める

 ―飯尾さんご自身の会社でも地域食材にもこだわったイタリア料理店を経営されています。縄屋のような名店が丹後で営業していることは地域にとってどんな利点があるでしょうか? 考えをお聞かせください。

 縄屋のある丹後は、縄屋のない丹後とは比べ物にならないほど魅力的です。言い換えるなら、丹後エリアのフラッグシップ(旗艦店)。そして私たち後輩は縄屋さんをお手本にしながら、それぞれが切磋琢磨することによって丹後の食の魅力を高めていく努力しています。

 その動きは上質な観光客の滞在時間を延ばし、宿泊を誘引することから、オーバーツーリズムを避けつつ、まちの活性化につながります。また、良いお店が増えることは住民のまちへの愛着にもつながると考えています。

魚菜料理 縄屋(さかなりょうり なわや)
京都府京丹後市弥栄町黒部2517
予約制で、料金1万8150円(税.サ10%込み)のコースのみ。11月からはカニのコースも
定休日は火・水曜

縄屋 ホームページ

縄屋 インスタグラム

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