与謝野駅100周年「100年後も鉄道とともにあるまち」へ

まちと文化

与謝野駅100周年「100年後も鉄道とともにあるまち」へ

 京都府北部・海の京都エリアを走る「京都丹後鉄道」(丹鉄)で、与謝野町唯一の駅が「与謝野駅」だ。長年にわたりまちの玄関口として利用され、2025年夏に開業100周年を迎える。人口減少とともに駅やまちから、かつてのにぎわいが失われる中、地元住民らは「100年後も鉄道とともにあるまち」を目標に掲げ、駅周辺の活性化に乗り出している。

にぎわい創出の動き

 日本三景の一つ「天橋立」がある天橋立駅から2駅。多くの観光客でにぎわう天橋立駅とは対照的に、与謝野駅周辺に人影はまばらだ。全国の多くの地方と同様に、まちは「人口減少」という大きな問題を抱えている。

 だが、100年後もまちや駅の歴史を刻み続けられるように、地元では住民や企業が動き始めている。クラフトビールやイベント、桜といった新たな地域資源が駅周辺で誕生しており、100周年を契機にしたにぎわい創出の取り組みが進む。

「丹後山田駅」として開業

「丹後山田駅」として開業
与謝野駅に併設された「丹後山田駅資料室」では「丹後山田駅」だった頃の看板などが展示されている

 与謝野駅の開業は1925(大正14)年。宮津線(宮舞線・宮豊線)の舞鶴(現西舞鶴)―宮津間が開通した翌年だった。当時の駅名は「丹後山田駅」。宮津線の延伸によってまちが鉄道とつながり、1925年7月31日に開通式が行われた。

 翌年の1926年には、与謝野町の加悦地域と宮津線を結ぶ「加悦鉄道」が開業した。当時、加悦地域は絹織物「丹後ちりめん」の生産が盛んであり、加悦鉄道は織物の出荷に欠かせない存在となった。また、昭和初期にはニッケル鉱石の輸送を担った。こうして丹後山田駅は交通の拠点として、まちの発展を支えてきた。

地域産業の発展に貢献  丹後ちりめん、鉱石を運んだ「加悦鉄道」

地域産業の発展に貢献  丹後ちりめん、鉱石を運んだ「加悦鉄道」

2022.9.30

大正から令和で変化

 大正から始まった駅の歴史。昭和、平成、令和と時代の移り変わりとともに、取り巻く環境は変化する。

 1985(昭和60)年には、ニッケル鉱石の輸送がトラックへと転換したことなどにより加悦鉄道は廃線となった。

 国鉄・JR西日本の路線だった宮津線は1990(平成2)年、京都府や沿線自治体が出資する第3セクターの北近畿タンゴ鉄道株式会社(KTR)に移管された。この時、旧野田川町によって現在の駅舎が整備され、駅名は「野田川駅」になった。

 2006(平成18)年には加悦町、岩滝町、野田川町の3町合併によって与謝野町が誕生した。2015(平成27)年、KTRの運行業務をWILLER TRAINS株式会社が引き継いで「京都丹後鉄道」となった際、駅名は町名を冠した「与謝野駅」に改称された。

 令和の時代となった今、与謝野町の人口は1万8333人(2020年国勢調査速報値を基礎とした2025年2月1日現在の推計人口)。20年前と比べると3割近くも減った。駅の利用者も少なくなり、駅周辺ではかつての活気がなくなった。空き店舗と空き家が目立つようになってきた。

駅やまちを盛り上げる動き

駅やまちを盛り上げる動き

 しかし、近年は衰退する駅周辺やまちを盛り上げようとする新たな動きが出てきた。

 その一つが、駅周辺の山田地区(上山田区・下山田区)の住民や企業でつくる「与謝野駅100周年委員会」だ。駅の開業100周年を見据え、2023年5月に発足した。駅前でイベントを開くとともに、空き店舗・空き家を活用したコンテンツの創出に取り組む。

若者がブルワリー

若者がブルワリー
ローカルフラッグの「TANGOYA BREWERY & PUBLIC HOUSE」

 100周年委員会には、駅前に本社兼ブルワリー(ビール醸造所)を構える株式会社ローカルフラッグが参画する。与謝野町出身の濱田祐太さんが大学在学中の2019年に設立した、まちづくり会社で、事業の一つにクラフトビール事業がある。

 クラフトビール事業では、他社への製造委託により2020年に地元のホップを使ったクラフトビール「ASOBI(アソビ)」を発売した。さらに2023年7月には町内唯一の駅を盛り上げようと、自社製ビールを醸造するため駅前にブルワリーや飲食店、本社の機能を持つ「TANGOYA BREWERY & PUBLIC HOUSE」をオープンした。

 駅前で地元のクラフトビールが飲めるようになり、新たな地域資源が生まれた。

100周年イベントを企画

100周年イベントを企画
「ヨサノガーデンフェス」をPRする山﨑さん(左)とローカルフラッグの中村さん

 若者の挑戦は地元への刺激になった。100周年委員会が立ち上がった背景にはブルワリーの開業があり、実行委員長の山﨑哲典さんは「2025年に駅は100周年を迎える。次の100年を迎えられるように、頑張っている若者と一緒になって活性化に取り組むべきだと思った」と振り返る。

 100周年委員会は今年7月、駅前で100周年イベントの開催を計画する。丹鉄車両の展示や郷土芸能の太刀振りを披露するとともに、ローカルフラッグのクラフトビールや地元飲食店のメニューを提供する。山﨑さんは「丹鉄を利用して来てもらいたい」と話す。

 また、100周年イベントのプレイベントに位置付ける「ヨサノガーデンフェス」を2024年7月から開いており、今年3月22日には3回目が開催された。

10のコンテンツ創出をめざす

10のコンテンツ創出をめざす
営業を再開した宿泊施設「大正亭」

 100周年委員会のもう一つの取り組みとして、コンテンツの創出がある。ブルワリーの開業以降、駅前の宿泊施設「大正亭」が営業を再開した。与謝野町とともに2024年8月に策定した「与謝野駅周辺まちづくり計画」では、ブルワリーや大正亭のような10のコンテンツ創出を目標に掲げる。

 実現するために駅前の空き店舗・空き家の活用を進めていく方針で、希望者には物件を紹介する。ローカルフラッグの中村貴大さんは「店をやりたい人や住みたい人が出てきている」と手応えをつかむ。

町が整備を計画

町が整備を計画
京都工芸繊維大学の角田研究室が作成した駅周辺整備のイメージパース

 100周年委員会と連携する与謝野町は、安心・安全な駅周辺エリアの整備や快適に過ごせる待合環境の整備を計画する。

 さらに駅周辺の活性化業務を担当する地域おこし協力隊員を募集し、2024年9月に郭珍秀(カク・ジンスー)さんが着任した。

桜で地域活性化も

桜で地域活性化も
植樹されたオカメザクラ

 このほかにも、駅やまちを盛り上げる動きがある。町内の商店らでつくる「百商一気」による桜の事業だ。2018年から2021年にかけて駅南側のサイクリングロード沿いに350本のオカメザクラを植樹した。春になると美しい桜が咲き誇り、乗客や住民の目を楽しませる。

 また、京都よさの百商一気合同会社を立ち上げて食用桜の販売なども手掛けており、桜による地域の活性化を図っている。

京都・与謝野を日本一の〝桜のまち〟に

京都・与謝野を日本一の〝桜のまち〟に

2024.1.19

これからの100年をつくる

 100周年の節目に、駅周辺でまちづくりの機運が高まった。「与謝野駅周辺まちづくり計画」で目指す将来像は「100年後も鉄道とともにあるまち」。100年にわたり人々に寄り添ってきた与謝野駅が、まちのこれからの100年をつくる場になろうとしている。

Share

カテゴリ一覧に戻る