サウナ愛好家が熱い視線 京丹後で「ととのう」

まちと文化

サウナ愛好家が熱い視線 京丹後で「ととのう」

 「ととのう」。サウナで体を温め、水風呂や外気浴で冷やすことの繰り返しにより、心身がスッキリとした状態を指す。海の京都(京都府北部)の京丹後市には、「ととのう」を求めるサウナー(サウナ愛好家)が熱い視線を注ぐ2つのサウナがある。

 一つは山村地域ならではの「自然」で差別化を図り、もう一つは「健康」の観点からサウナと日本の発酵文化を掛け合わせた世界初の温浴施設。それぞれが異なる個性を放ち、地域にサウナーを呼び込んでいる。

山村の自然で「ととのう」

山村の自然で「ととのう」
「蒸―五箇サウナ―」の前を流れる小川

 日本最古の羽衣伝説が残る京丹後市峰山町の磯砂山(いさなごさん)。ふもとの山村の景色に溶け込む一軒の古民家が、実は人気のサウナ「蒸(むす)―五箇サウナ―」(京丹後市峰山町鱒留)だ。薪(まき)ストーブを熱源とした本格的なフィンランド式サウナに、体を冷やせる小川や雪。ここでは自然が「ととのう」を生み出す。

 「お金ではつくれないものに特化した」。支配人を務める足立樹律さんの意向が反映されたサウナだ。オープンは2022年11月。設備が充実したサウナは都市部など他地域にもあるため、注力するのはソフト面での差別化。自然に囲まれた山村の環境を生かす。

人も地域も温める

人も地域も温める
支配人の足立さん

 足立さん自身もサウナーだ。京都市出身で、実家近くの銭湯にはサウナがあり、子どもの頃は遊び場の一つのような身近な存在だった。改めて魅力に取りつかれたのは、社会人になってから。東京の広告代理店で働き、忙しい生活を送る中、疲れた心と体はサウナで癒やされた。

 いつしか「サウナを仕事にしたい」と思うようになり、勤めていた会社を退職。まずは経験を積もうと、サウナーの間で評判だった長野県のアウトドアサウナ「The Sauna(ザ サウナ)」の門をたたき、1年ほど働いた。

 「人も地域も温める」。サウナとの関わりが深まり、理想のサウナ像が見えてきた。目指すのは、自身にとってサウナの原点である銭湯のような施設。人々の交流や地域のにぎわいを創出する場だ。

営業中の「蒸‐五箇サウナ‐」

 SNSで「理想のサウナをつくりたい」という思いを発信したところ、まちづくり事業を手掛ける海の京都の企業とつながりができた。その企業を通して着目したのが京丹後市。豊かな自然があり、アウトドアサウナとの相性が良さそうだった。理想のサウナを目指し、21年に同市に移住。サウナの知識や経験を役立てようと、同年には地域おこし協力隊員に着任した。

 協力隊員としての活動には、磯砂山のふもとに広がる五箇地域の活性化事業がある。五箇でテントサウナの体験会を行うと好評で、手ごたえをつかんだ。更に、足立さんの理念に賛同する人たちがサウナ施設の開設に協力。五箇の古民家を活用した「蒸―五箇サウナ―」が誕生した。

心を落ち着かせる

心を落ち着かせる
サウナを温める薪ストーブ

 サウナ内は薄暗い。明かりは、小さな窓から入るわずかな光と薪ストーブの炎のみ。「心を落ち着かせながら、自分と向き合ってもらいたい」という足立さんの考えからだ。ストーブで熱した石に水を掛けて蒸気を発生させる「ロウリュ」ができ、体感温度に影響する湿度を調整しながら心地良く体を温められる。

小川や雪で体を冷やす

小川や雪で体を冷やす

 サウナにつきものの水風呂は、ない。代わりとなるのが、磯砂山から流れる小川。寝ころべる程度に浅く、自然と一体化したような感覚で体を冷やせる。

 また、冬には雪が積もるので「雪ダイブ」も人気があるという。

 外気浴は、季節や時間帯で姿を変える山村の風景が楽しめる。敷地内には囲炉裏があり、冷えた体をほどほどに温めたり、食材を焼いて食べることもできる。

 男女で楽しめるように利用は水着着用とする。基本的には事前予約によるグループごとの貸し切り制だが、銭湯感覚でも訪れてもらえるように予約不要で個人で利用できる日も設定している。

「蒸‐五箇サウナ‐」ホームページ

健康につながる「ととのう」へ

健康につながる「ととのう」へ
「ぬかとゆげ」

 100歳以上の割合が全国平均の3倍ほどに上る「健康長寿のまち」の京丹後市。医療の観点から医師が経営するフィンランド式サウナと米ぬか酵素風呂を備えた温浴施設が、22年11月に開業した「ぬかとゆげ」(同市峰山町杉谷)だ。サウナと米ぬか酵素風呂、両方の温浴ができる施設は世界初という。健康につながる「ととのう」を目指す。

 サウナは、全国的にも数少ない車いすに対応したバリアフリーサウナなどが5室。米ぬか酵素風呂は京丹後産の米ぬかを使い、自然発酵の熱で体を温める。両方の温浴を利用することで相乗効果が期待できるという。

医師の経験がきっかけ

医師の経験がきっかけ
オープン時にテープカットする吉岡さん(右から5人目)

 経営者は、整形外科医であり「よしおかクリニック」(同市峰山町新町)院長の吉岡直樹さん。新たな分野への挑戦は、自身の経験がきっかけとなった。

 16年にクリニックをオープンした。診察する患者のほとんどが治療やリハビリによって症状が改善するものの、コロナ渦になり中には治療が長期化してしまうケースも増えてきた。こうした患者に共通していたのが自律神経の不調で、効果がありそうなものが温熱療法だった。

 まず目を付けたのが、知人から紹介された米ぬか酵素風呂だ。野球やサッカーなどのプロスポーツ選手が利用する施設の存在を知り、自ら体験してみた。「これはすごい」。体の温まり方はこれまでに体験した温浴とは明らかに違うように感じた。

 だが、酵素風呂は医学的エビデンスが乏しかった。そこで、医学的エビデンスが豊富な温浴として注目したのがサウナ。今までの実績があるサウナと未来への可能性を秘める酵素風呂を体験できる施設をつくることにした。

丹後の事業者が作った休憩用のいす

 フィンランドのサウナ文化、日本の発酵文化。「ぬかとゆげ」は2つを組み合わせた世界でも例がないという施設で、ホテル「KISSUIEN Stay & Food」の敷地内にある日本家屋をリノベーションして活用した。丹後で作られる織物や和紙、ちょうちん、家具などを店内に散りばめ、丹後らしさも出した。

個性ある5室のサウナ

個性ある5室のサウナ
映像や音楽が楽しめる「ゆふでっさ」

 5室のサウナは、寝転んで利用できる「のこせっと」、好きな映像や音楽が楽しめる「ゆふでっさ」、フィンランドテイストの「たうこ」、和の空間を演出した「へとき」、車いすで入れる「よかいねん」。それぞれに個性を出した。いずれもロウリュができるほか、吸排気のバランスを整えることで息苦しさのないサウナに仕上げた。

寝転んで利用できる「のこせっと」

 それぞれのサウナ室の特徴を示すフィンランド語が名称の由来となっており、1室の定員は2~3人(4人以上は要相談)で、事前予約による貸し切り制。水着着用なので男女で利用できる。

ユニバーサルサウナの「よかいねん」

 特徴的なのが、ユニバーサルサウナの「よかいねん」。エストニア製の最新ストーブを導入しており、温かい空気を足元から出す機能により「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」の温まり方ができる。車いすユーザーだけでなく、幅広い層に人気だ。

発酵の熱で温浴

発酵の熱で温浴

 米ぬか酵素風呂は電気やガスのエネルギーは使わず、発酵で生じる熱を利用する。米ぬかは全て京丹後産で、温浴に使用したあとは肥料として再資源化。循環型農業にも寄与する。

カニ、海、そしてサウナに

カニ、海、そしてサウナに
店長の前田賢人さん

 23年11月には、全国のサウナを巡る「プロサウナー」が魅力的な11の施設を選ぶ「サウナシュラン2023」で入賞した。

 The Saunaで足立さんとともに働いた経験もあるサウナ責任者の前田賢人さんは「医療の観点を持った施設は珍しく、評価につながったのでは」と喜び、次の段階も見据える。「今は京丹後といえば『カニ』と『海』。ゆくゆくはこれに『サウナ』も加わるように地域を巻き込んで盛り上げていきたい」

「ぬかとゆげ」ホームページ

「蒸 ―五箇サウナ―」「ぬかとゆげ」ですぐ使えるふるさと納税「海の京都コイン」

「蒸 ―五箇サウナ―」「ぬかとゆげ」ですぐ使えるふるさと納税「海の京都コイン」

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