丹後の歴史・文化を後世に 語り部の会が動画制作

まちと文化

丹後の歴史・文化を後世に 語り部の会が動画制作

 丹後ちりめんにまつわる「がちゃまん物語」、丹後地域に残る「浦島伝説」、京丹後市とかかわりの深い「細川ガラシャ」など、丹後地域には様々な歴史や文化が数多く残る。こうした歴史や文化を伝えようと活動している「丹後語り部の会」(東哲会長)は、観光客を案内するツアーガイドや乗客にその土地の歴史を紹介する「語り部列車」など様々な場所で活躍してきたが、最近では会員らが得意とする歴史や文化を語る動画を制作し、動画投稿サイト「YouTube」で公開するなど精力的に活動している。

ふるさと検定合格者らで発足

ふるさと検定合格者らで発足
語り部の会の東会長

 語り部の会発足のきっかけとなったのは、舞鶴市以北の市町や観光協会などでつくる丹後広域観光キャンペーン協議会が実施していた「北京都丹後ふるさと検定」。丹後に関する知識を問うふるさと検定は2007年から13年まで行われ、合格者は「丹後観光口コミ大使」に認定されたが活躍の場が少ないことから、口コミ大使を中心に丹後の魅力を広く発信していこうと11年、語り部の会が設立された。

精力的に活動

精力的に活動
現地勉強会を行う会員ら

 会の活動は幅広く、丹後の自然や文化、歴史、神社仏閣、観光などに関する勉強会を開いたり、観光客に現地を案内するツアーガイドをしたり、北近畿タンゴ鉄道(現京都丹後鉄道)が企画した「語り部列車」で丹後の歴史などを紹介したり、宮津市で行われるまち歩きイベント「和火(やわらび)」で語り部を実演したりと様々。14年3月には京丹後市で「全国語り部フェスティバル」を開催し、全国各地の語り部団体と交流を深めた。

25本の動画を制作

25本の動画を制作
動画制作のための勉強会を開いた

 現在の会員は旅館の女将やバスの運転手、丹後ちりめんの関係者、元公務員など50代から80代までの22人。近年はコロナ禍で語り部の活動が減少し、会員の高齢化も課題となる中、「丹後の歴史や文化を残すためにも次の世代につないでいきたい」と23年から始めたのが動画の制作。会員らは語り部の会の発足当初から活動に協力している嵯峨美術大学名誉教授の坂上英彦さんを講師に動画づくりの勉強会を開くなどし、これまでに25本を制作した。

古里の素晴らしさ知ってほしい

古里の素晴らしさ知ってほしい
丹後語り部の会が公開している動画の一場面

 動画は、宮津城下町の町民らが先祖の霊を供養するために始めた「宮津燈籠流し」、丹後ちりめんが盛んな丹後地域で養蚕の大敵となるネズミを駆除するために飼われた猫にちなんだ金刀比羅神社(京丹後市峰山町泉)の「こまねこ」、京丹後市網野町浅茂川の嶋児(しまこ)神社に残る「浦島伝説」、離別させられた夫婦の恋物語が伝わる倭文(しどり)神社(与謝野町三河内)の曳山祭りを紹介した「おーい! おーい!」、スペイン風邪で亡くなった伊根町・旧筒川村の製紙工場の従業員42人の慰霊のために建立された「丹後大仏」など。平均7分ほどで語り部の会の会員たちによるナレーションが入り、分かりやすく内容を伝えている。東会長は「動画を活用して地域の人々に古里の素晴らしさを知ってもらいたい」と願う。

 23年11月から公開しており、これまでの閲覧者は延べ4500人ほど。海外在住の丹後出身者が動画を見て古里の歴史に触れたいと帰郷したこともあったといい、東会長は「単なる丹後観光ではなく、語り部の人に会いに行くという新しい観光の形につながれば」と期待を寄せる。今年4月12日までに25本全てを公開する予定だ。

初めての動画制作発表会を開催

初めての動画制作発表会を開催

 今年3月6日、語り部の会は丹後地域での語り部活動を活性化させていこうと初めての動画制作発表会を京丹後市で開催。170人ほどが参加し、嵯峨美大の坂上さんの講演を聴いたり、語り部動画を視聴したりした。

嵯峨美術大の坂上名誉教授が講演

嵯峨美術大の坂上名誉教授が講演
講演する坂上さん

 坂上さんは「語り部動画を活かした宝の継承」をテーマに講演。海外に比べて博物館の数が少ない日本では「語り部の会が博物館に代わる生きた活動になる」と述べた坂上さんは、動画について「(丹後地域の歴史や文化を)次世代に必ず残すことができる大きな成果。語り部一人ひとりが口調や価値観、アピールしたいことが違うことが大切」と評価した。

 また、語り部の会の協力を得て地域の歴史や文化に関する7本の動画を制作した丹後緑風高校企画経営科の2年生によるメッセージが披露され、動画披露のあと、生徒たちは「今まで知らなかった歴史や文化を次の世代に継承していくため、もっとこの地域について深く知ることが大切だと分かった」と感想を寄せた。高校生が制作した動画も語り部の会のYouTubeチャンネルで公開される。

会員らが動画への思い語る

会員らが動画への思い語る
動画への思いを語る会員たち

 メインとなる動画発表では、7人の語り部たちが手掛けた動画を上映し、動画に対する思いを発表。「丹後大仏」を担当した語り部の会最高齢の小塚敏郎さんは、「私がこの話を作ったのはコロナ禍が始まった年。丹後にもスペイン風邪で大きな被害を受けた話があることを知っていたし、そのことで大仏ができたのも知っていた。伊根町の方から貴重な資料を送ってもらい、約1年をかけて現場の調査、役場や図書館で調べて、この話をつくることができた」と語った。

 「宮津燈籠流し」の動画を担当した宮川優さんは「8月16日の宮津燈籠流し花火大会は、多くのお客様が花火を目当てに来られているが、燈籠流しがメインであることを知ってほしい。皆さんの思いをのせて流れていく燈籠を見て、なぜこの行事が始まったのかを考えながら、この先の燈籠流しを見てほしい」とした。

 また、伊根湾に並ぶ舟屋の歴史を紹介する「伊根浦物語」を手掛けた倉野寿子さんは48年前、結婚で大阪から伊根町に移り住んだ。「大阪から一歩も出たことがなかった私が伊根を訪れたとき、舟屋が大きな口をあけて『何も心配せんでええで。大丈夫やで』と、そんな風に出迎えてくれた様に感じた。何かあると、舟屋は『アクティブに、ポジティブに前に進んだらええんや』と私を激励してくれる。私にとって舟屋はただ珍しいだけの景色ではない。そんな思いを動画に込めた」と思い出とともに動画を紹介。会場から大きな拍手が送られた。

会員の生きがいづくりに

会員の生きがいづくりに
丹後語り部の会の会員や関係者ら

 動画制作発表会は大盛況に終わったが、語り部の会の活動はこれからも続く。動画づくりをきっかけに「年をとってきたので会員をやめようと思っていたが、もうしばらく続けたい」という人もいるなど、会員の生きがいづくりにもつながっているといい、東会長は「丹後にはまだまだ知られていない歴史や文化がある。それを掘り起こして動画に残していければ」と今後の活動に意欲を燃やしている。

丹後語り部の会のYouTubeチャンネル

丹後語り部の会のホームページ

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