新たな茶の〝一服〟を探求 宮津の老舗「磯野開化堂」に迫る

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新たな茶の〝一服〟を探求 宮津の老舗「磯野開化堂」に迫る

 日本茶の爽やかで豊かな香りが店内に漂う。宮津城の城下町として栄えた京都府宮津市の魚屋地区で営業する茶の専門店「磯野開化堂」だ。130年近くの歴史を持つ同店は時代に応じて変容し、新商品を開発するなどして新たな茶の〝一服〟を探求し続けてきた。いまや丹後地方で唯一の日本茶専門店となった同店の歴史と魅力に迫る。

明治30年創業、丹後一円に卸売り

明治30年創業、丹後一円に卸売り
創業時の引札。現在でいうチラシ広告で、「宮津萬町天神前」などと記されている

 創業は1897(明治30)年。住民に「天神さん」として親しまれている桜山天満宮近くの宮津市万町で看板を上げ、現在の同市魚屋に移っても旧城下町のにぎわいに貢献してきた。

茶箱や袋詰めのお茶などが並ぶ店内

 店内には店の歴史が感じられる年代物の「茶箱」(茶葉を新鮮に保存・運搬する木箱)が積まれ、棚には全国各地の茶と茶器などが並ぶ。茶は綾部、京丹後など京都府北部産を始め、関西のお茶所、宇治茶や伊勢茶、福岡の玉露などで、顧客のニーズに応えた選りすぐりの日本茶がそろう。

 古来、生活の一部として親しまれてきたお茶。明治や大正期、磯野開化堂では小売りがほとんどだったが、昭和の半ばごろから卸売りにも力を入れるように。近年は丹後地方一円の店などに卸してきた。

卸売りから転換、ものづくりを

卸売りから転換、ものづくりを
5代目となる磯野修一さん

 5代目となる磯野修一さんは約20年前、21歳で家業に入った。当時、卸売りと小売りの比率は6対4。缶に加え、ペットボトル入り緑茶飲料が急速に普及した時代だった。

 店を手伝い始めて丹後の商店や個人にも配達していた磯野さん。年々、顧客が減っていくのを肌で感じた。人口減と相まって店も減り、まちの景色が変わっていく。「地域外の売り上げをつくらないと立ち行かなくなる」。危機感を募らせ、卸売り主体の経営方針に舵を切った。

 まずは東京の食品展示会などに出展し、見聞を広めた。そこで感じたのは全国に打って出るための自社ブランド。「卸売りはどちらかというと右から左に商品を流すだけ。これからは自らが知恵を絞り、ものづくりをしないと生き残れないと感じました」

日本茶と地域食材でアイス商品化

日本茶と地域食材でアイス商品化
商品化した「開化堂アイス」

 そこで2009年、商品化したのは宇治などの国産茶と丹後産の牛乳、卵などの地域食材を使った「開化堂アイス」。茶の香りを最大限に引き出した茶専門店ならではのアイスクリームで、「抹茶」「ほうじ茶」「和紅茶」「黒豆茶」の4種類をラインナップした。

 牛乳は京丹後の「ヒラヤミルク」、卵は伊根の「三野養鶏場」から仕入れ、地域性も出した。「地元にこんなに素晴らしい食材があるのだと初めて気づきました」と磯野さん。アイスは、市のふるさと納税返礼品としても人気という。

設備を機械化し、安定して量産、供給できる態勢を整備

 次の一手は店の設備の機械化。茶葉を自動で袋詰めする包装機やティーバッグの製造包装機などを導入し、安定して量産、供給できる態勢を整えた。磯野さんは業務の効率化で生まれた余剰時間で営業活動に注力。結果、全国の商業施設で地域食材を扱う店舗を運営する会社との取引が決まるなどし、販路が広がった。

 ただ、モノがあふれる現代。手広くやればやるほど競合相手にぶつかる。そこにコロナ禍が重なり、商品の出荷量が減少。再び、厳しい舵取りを迫られることになる。

〝お茶屋がつくる絵葉書〟 観光土産も

〝お茶屋がつくる絵葉書〟 観光土産も
パッケージに丹後の名所の風景画をあしらった「風景緑茶」

 コロナ禍で悩み、導き出した答えは、観光のまち・宮津で地域のニーズに応えて新たな需要をつくること。〝お茶屋がつくる絵葉書〟をコンセプトにしたオリジナルの土産品「風景緑茶」は、こんな思いから生まれた。

スマホをQRコードにかざすとグーグルマップで名所が表示される

 パッケージに名所の風景画をあしらったティーバッグ緑茶(2個入り税込み270円)で、風景画を楽しみながら、店の独自ブレンドによる香り高い緑茶が楽しめる。更に、スマホをかざすと、グーグルマップで名所の場所が表示されるQRコードも付けた。

 風景画は天橋立を始め元伊勢籠神社、金引の滝、由良川橋梁など宮津の名所のほか、伊根の舟屋なども。観光地を巡った人には記念になり、お気に入りの名所を紹介するツールにもなる。

 磯野さんは「もらった人が関心を持ち、また宮津に来てもらうきっかけになれば。地域内の回遊性が高まればうれしい」と話す。

地元の宿とアメニティーグッズ

地元の宿とアメニティーグッズ
地元の宿に置かれているティーバッグのパッケージ

 宿泊客をもてなすホテルなどのアメニティーグッズも手掛けるようになった。

 地元ホテルや旅館の要望に応じて受注生産するティーバッグで、パッケージには宿の名称とロゴなどをデザイン。丹後産コシヒカリを使った玄米茶を入れるなど施設側の細かな要望にも応じており、磯野さんは「様々なカスタマイズが可能です。泊まったお客様の満足度アップにもつながるお手伝いができれば」と思いを語る。

 最近では宮津の新たな特産品として注目が集まるオリーブの葉を使った茶の加工やパッケージ化に取り組むほか、綾部の茶農家と連携して「綾部抹茶」の商品開発とブランディングなどにも尽力。地域農業の担い手を支援している。

「一服を通じてお茶の素晴らしさを多くの人に」

「一服を通じてお茶の素晴らしさを多くの人に」
「地域に寄り添った営業を心掛けていきたい」と話す磯野さん

 独自の土産品や地元事業者とコラボ、茶農家の支援など活動の幅を広げている磯野さんに、今後の展望を尋ねてみた。

 ―お茶を流通させるという仕事は変わらず続けていきます。たくさん流通させることによって多くの人にお茶の魅力を味わってもらえます。そして今は多くの外国人が宮津など丹後一円に来ていますので、外国人向けに地元の老舗旅館と組んで日本茶を体験してもらうプランなどを考えています。
 
 また、イベントなどに積極的に参加していきたいですね。例えば、抹茶ラテなどの屋台メニューを開発して提供し、お客さんの声を聞きながら今後の商品開発や事業展開に反映させていきたいです。地域に寄り添った営業を心掛けていきたいですね。

 健康志向の高まりでジャパニーズティーは海外でも人気。生活に溶け込む日本では郷愁を誘う、かけがえのない嗜好品で、癒やしでもある。「一服を通じて、お茶の素晴らしさをたくさんの人に知ってもらいたい」。5代目の挑戦は続く。

磯野開化堂ホームページ

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