1200年の伝統受け継ぐ 伊根の本庄祭

まちと文化

1200年の伝統受け継ぐ 伊根の本庄祭

 夏真っ盛りの8月初旬、伊根町本庄浜の浦嶋神社では「本庄祭」として地元で親しまれている例大祭が営まれている。1200年近く続くこの祭りで五穀豊穣や豊漁などを願って奉納される棒振りや太刀振り、花の踊りといった伝統芸能は、京都府の無形民俗文化財にも指定され、地域の住民たちが守り継いできた。更に2025年には創祀1200年を迎え本殿の大改修も行われるなど、大きな節目の年として注目が集まっている。

創建は825年

創建は825年
浦嶋神社に伝わる玉手箱

 浦嶋神社は、伊根の舟屋群から車で更に北へ20分ほど走った本庄地区にある。創建は平安時代の初期に当たる天長2(825)年。祭神は浦嶋太郎として知られる「浦嶋子(うらしまこ)」で、神社には浦嶋伝説を描いた「浦嶋明神縁起絵巻」や、嶋子が龍宮城から持ち帰ったとされる玉手箱などが残されている。

 例大祭は嶋子の命日にあたる8月7日に営まれ、7日に近い土曜に宵宮、日曜に祭礼奉納奉告祭が執り行われる。太刀振りなどの伝統芸能が奉納されるのは奉告祭で、この日は地元の住民や里帰りした本庄地区の出身者ら多くの見物客でにぎわいを見せる。

伝統芸能が残る例大祭

伝統芸能が残る例大祭
提灯を手に神社を目指す氏子

 宵宮はセミの鳴き声がやみ、静まり返った夜8時から始まる。本庄宇治、本庄上(あげ)の2集落から、氏子の若い男性たちが提灯を手に、伊勢音頭を歌いながら列を作って神社へ。神社では太鼓が鳴り響き、氏子たちを迎える。

威勢の良い掛け声に合わせて激しくもみ合いが行われる

 神社に到着した氏子たちは、参道や境内に提灯を納めたあと、集落ごとに拝殿に集合。「わっしょい」などの掛け声に合わせて激しくもみ合いをしたり、浦嶋節を歌ったりして意気盛んな様子を神様に奉納する。

 〽そろりそろりと出た声なれど 声を取られた 河風に
 〽丹後浦嶋 賽銭どころ なけりゃ持ちよる 諸国から
 〽今宵一夜は浦嶋様の 開けてくやしや 玉手箱

 52番まである浦嶋節は独特の節回しが特徴で、昔は青年の家で氏子たちが朝まで歌っていたという。宵宮では氏子の声に合わせて地元の見物客らも一緒に歌い、境内に歌声が響き渡った。

太刀振りや花の踊りは見もの

太刀振りや花の踊りは見もの
走って境内に入る氏子の男性たち

 翌日の奉告祭は、各集落から氏子たちが太鼓の載った屋台を引いて神社へ。勢いよく走って境内に入ったあと、各集落から持ち寄ったのぼり旗を拝殿の前に立てる。

勇壮な太刀振り(写真上)、ここでも激しいもみ合いがある(同中)、棒振りはかわいらしい男児によって行われる(同下)

 午前9時から神事が執り行われたあと、青年たちがお囃子(はやし)に合わせて勇壮な太刀振りを奉納する。所作は集落によって異なるのも特徴で、太刀振りのあと大きな掛け声に合わせてもみ合いが行われると、祭りは一気に活気づく。拝殿の前で幼い男児2人が棒振りを披露したのに続き、拝殿内の石畳で優雅な花の踊りが奉納される。

手作りの花飾り

 花の踊りで使われる花飾りは、色紙で作った梅や桜などの造花を竹ひごに貼り、麦わらで作った束に刺したもの。氏子らはこの花飾りを手に、歌を歌いながら左右に揺れる独特の踊りを奉納する。

祭りの最後を飾る花の踊り

 以前は本庄宇治、本庄上に加え、本庄浜や隣接する蒲入(かまにゅう)地区からも祭りに参加していたが、若者の減少などにより現在は2集落の参加にとどまっている。見物に来ていた本庄地区出身の男性は「蒲入の太刀振りは衣装も他と違い、踊りも更に特徴的だったのを覚えている」と懐かしそうに話してくれた。1200年もの長きにわたって守り継がれた伝統行事は今年も粛々と奉納され、浦嶋神社の夏は終わりを告げた。

創祀1200年で社殿を大改修

創祀1200年で社殿を大改修
大改修が行われる社殿

 一方、2025年に創祀1200年を迎える浦嶋神社では、社殿の大改修という一大プロジェクトが進められている。

 天長2年に創建され、それ以降、かつては33年ごとに屋根の葺き替え、66年ごとに社殿の建て替えが行われてきた。現在の社殿は明治17(1884)年の御遷宮により建て替えられたものだが、それ以降は御遷宮が行われていないため建物の痛みが激しく、加えて2004年の台風による倒木で社殿が傾いてしまったという。

 創祀1200年に合わせて行われる社殿の大改修では、2025年4月7日にご神体を別の場所に移す「御魂移し(みたまうつし)」の神事が執り行われたあと、社殿を解体し、基礎から組み直す大規模な修繕作業が行われる。工事は1年半かけて行われる予定で、完成は2026年10月。そのあとに創祀1200年祭が執り行われることになる。

 創祀1000年祭は江戸時代に盛大に行われたとされるが、1100年祭は行われておらず、実に200年ぶりという大きな節目を迎える浦嶋神社。宮嶋淑久宮司は「社殿や祭りなど、長きにわたって守られてきた文化財や伝統、風習をこれからも守り続け、将来に間違いなく伝えていきたい」と願っている。

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