砂浜に次々と漂着する海ごみ―。世界に共通する問題は、日本海に面した京都府京丹後市にもある。この町で海は重要な観光資源。観光客は「美しい砂浜」を目にすることが多い。だが、これは自然な状態ではない。人の手が入らなければ「ごみだらけ」の状態になってしまうのだ。長年にわたり地元住民らによるビーチクリーンが行われており、その活動には新たな動きが生まれている。
「美しい砂浜」を守る 京丹後のビーチクリーン
海と生きる
観光資源の砂浜
京丹後には観光資源の砂浜がある。名勝「立岩」(京丹後市丹後町間人)や鳴き砂で知られる「琴引浜」(京丹後市網野町掛津)、サーファーに人気の「八丁浜」(京丹後市網野町浅茂川)、夕日の名所「夕日ケ浦」(京丹後市網野町浜詰)、日本海と久美浜湾を隔てる小天橋(京丹後市久美浜町湊宮)などだ。
いずれもビーチクリーンによって「美しい砂浜」が守られている。海水浴客でにぎわう夏は特に重点が置かれており、「ごみだらけ」となった砂浜を見られることは少ない。
打ち上げられる海ごみ
しかし、季節が変わると状況は一変する。冬の日本海は波が高く、強い風が吹く。打ち上げられる海ごみが増え、砂浜ではペットボトルや漁具、ビニール袋などが目に付くようになる。
ビーチクリーンは基本的にボランティアで行われる。京丹後は京都府内でも人口減少と高齢化が著しい地域。活動に参加できる住民は減り続けており、ボランティアや善意に頼るだけでは「美しい砂浜」の維持は難しくなってきている。
ビーチクリーン会社が誕生
2024年10月、全国的にも珍しいビーチクリーンの会社が誕生した。京丹後市網野町浅茂川の「株式会社あしあと」だ。代表取締役の八隅孝治さんは、「観光」の分野で活動してきた元地域おこし協力隊員。海ごみの問題と向き合う中でボランティアの限界を感じ、「ビーチクリーンが職業になる社会」を目指して創業した。
八隅さんは京都市出身。元は消防士で、2019年に妻子とともに京丹後に移住してから協力隊員に着任した。京丹後は妻の出身地。移住前、たまに訪れていた頃は「美しい砂浜」が当たり前だと思っていたが、住民になると、そうではないということを知った。砂浜に海ごみが流れ着き続ける現状を目の当たりにしたのだ。
住民として、また「観光」を担う協力隊員としても、砂浜の景観や安全性を損なう海ごみの問題は放っておけず、ビーチクリーンには積極的に参加した。維持が難しくなった地元団体の活動も自ら引き継ぎ、月1回のビーチクリーンイベント「MOYAKO」の運営に乗り出した。
また、ビーチクリーンを体験や教育に結び付ける個人事業「丹後エクスペリエンス」を立ち上げた。協力隊の任期が終わるタイミングで法人化したものが、あしあとだ。
活動資金を調達
ボランティアではなく、仕事としてビーチクリーンを手掛ける。収入源の一つが、活動に賛同するスポンサーからの寄付だ。京丹後市内の企業を中心に38社(今年1月19日時点)がスポンサーとなっており、ビーチクリーンの際には企業名を掲出する。
このほかには「プラスチック再生」「体験・研修」「eバイク(電動アシスト自転車)レンタル」などの事業で収益を上げ、ビーチクリーンの資金に充てる。
プラスチック再生は、海ごみやペットボトルキャップなどのプラスチックを活用してコースターなどの製品を作る。その工程は、プラスチックを細かく砕き、軟らかくなるように熱してから金型に流し込んで成形する。必要な装置は八隅さんが自作した。
製品は一般消費者に向けて販売するだけでなく、海ごみ問題に関心を持つ京丹後のホテルや東京の企業に内装材として採用された実績もある。
体験・研修では海ごみがある砂浜を見せ、ビーチクリーンやプラスチック再生を体験してもらう。高校の教育旅行や大手企業の研修旅行などを受け入れており、「美しい砂浜」を守るための苦労を伝えている。
未来への「あしあと」に
2025年は62回のビーチクリーンを行った。参加人数は延べ2173人で、回収した海ごみは約16.5トン。スポンサーにはそれぞれの寄付額に応じて、どれだけの量の回収につながったかを記載した感謝状を贈る。森林整備などによる二酸化炭素吸収量のように、海ごみ回収量にも市場価値を生み出す考えだ。
ビーチクリーンの社会的な評価が高まれば、CSR(企業の社会的責任)などで活動資金は調達しやすくなる。八隅さんは京丹後で成功事例をつくり、全国へと広がっていくことを願う。
「美しい砂浜が守り続けられるように、未来への『あしあと』になりたい」
「ものづくりの町」で器具を開発
300年以上の歴史を持つ織物「丹後ちりめん」が織られるなど、京丹後には「ものづくりの町」という顔もある。こうした地域の特性を生かしてビーチクリーンでの困り事の解決を図ろうと、あしあとなど市内の企業3社が連携して専用の器具を開発した。
細かな海ごみを回収
砂に混ざった細かな海ごみを回収する「ecoビーチクリーナーPRO」。燃料は不要で、簡単に使える。宿泊施設経営などの株式会社タカシマプラス(京丹後市丹後町平)が中心となって企画した。金属部品メーカーの株式会社タムラ(京丹後市大宮町周枳)が製作、あしあとが試用を担い、試作を繰り返して2025年秋に完成させた。京丹後でのビーチクリーンで使用するほか、全国へ向けて販売やレンタルを行っていくという。
細かな海ごみは砂に混ざったり、埋もれたりする。タカシマプラス代表取締役の石川智也さんは高嶋海水浴場(京丹後市丹後町上野)でビーチクリーンを行う際、回収に困っていた。そこで目を付けたのが、金属加工の技術を持つタムラと、ビーチクリーンのノウハウがあるあしあと。解決につながる器具のアイデアはあり、3社で連携すれば作れると考えた。
全国に普及を
完成した器具は、グラウンド整備用の「トンボ」に似た形だ。砂浜で引くと、海ごみを砂ごと回収するが、細かな穴がたくさんあるので砂だけをふるい落とせる。さびに強いステンレス製で、幅は1メートル、重さは約8キロ。運びやすいように両端にタイヤがあり、自立させるためのスタンドもある。タカシマプラスの商品として扱う。
石川さんは「効率的に細かな海ごみが回収できるようになり、これまであきらめていた『仕上げ』の作業ができるようになった」と器具の完成を喜び、「奇麗な砂浜を増やしていきたい」と全国への普及を目指す。

