革新の与謝野ホップ - クラフトビール前編

まちと文化

革新の与謝野ホップ - クラフトビール前編

数年前から続くクラフトビールブーム。今回、お好きな方にも、苦手な方にも、知って欲しいことがあるんです。

それは、クラフトビールの魅力そのものである「多彩さ」。

そもそもビールには100種類ほどのスタイルがあり、さらにはフリースタイルと呼ばれる、どのカテゴリにも当てはまらないビールもあります。日本でビールというと大手の有名銘柄を思い浮かべますが、実はそのほとんどが「ピルスナースタイル」と呼ばれるもの。約100種類のうちたった1種類のスタイルが、日本で言うビールだと思われている、ということなんですね。

クラフトビールのムーブメントは1960年代、アメリカ西海岸からと言われており、日本で始まったのはその後の1994年の酒税法の改正から。日本には2000年以上飲まれているお酒がある一方で、クラフトビールはまだそれほど歴史が深いわけではないのです。多彩なビールが飲まれるようになったのは、割と最近からということなんですね。

でも実は、そこが面白いところ! つまり、

「今、急速に進化しているお酒。それがクラフトビール」

ということなんです。

生ホップでビールを造る!

生ホップでビールを造る!

日本でも多彩なクラフトビールが生まれ続けている中で、近年、ここ海の京都「与謝野町」にて、新たなムーブメントが発足しました。それが「ホップを育て、生のホップでビールを造る」という革新的な動きです。

国産ホップは、これまでも栽培されていたのですが、ほとんどが契約栽培。自由に購入はできないものでした。
そんな中、与謝野町はフリーランスとしてのホップ栽培に成功。醸造家が生のホップを使い、自分の想いでビールを作れるようになったのです。ビール製造に使われるホップのほとんどが乾燥したペレット状のものである中で、生である「与謝野ホップ」が使える可能性は計り知れません。

「日本オリジンのビール」が作りたい

与謝野ホップの歩みと魅力をこちらの3名の方に伺いました。

左:日本ビアジャーナリスト協会代表であり、今回与謝野町に移住してホップ栽培を始めた、京都与謝野酒造合同会社の藤原ヒロユキ氏。 中央:与謝野町を代表する農家であり、ホップ栽培を手掛ける有限会社あっぷるふぁーむ代表の山本雅己氏。 右:地域活性化を志し、地元で環境問題になっていた「牡蠣殻」を有効活用したビールを開発した、かけはしブルーイング代表の濱田祐太氏。

藤原氏が与謝野ホップでのビール醸造に至ったのは、「日本オリジン」という思いが芽生えたからでした。

藤原「25年以上、ビアジャーナリストとしてビール業界に携わってきて、ワールドビアカップなどで海外の審査員や醸造家、ビール評論家の皆さんとお会いしてきました。その中で強く感じたのは、日本オリジンの、日本らしいビールって何だろう?…答えられないな、っていうことだったんです。その手がかりを探る中で、やはり原料が無いのがネックなんだと感じました。」

その後藤原氏は、奥様の実家があるここ与謝野町にて、遊び心で庭先にホップの苗を植えてみたとのこと。そうすると、驚いたことにホップが実ったのです。

常識を覆した、関西でのホップ栽培

常識を覆した、関西でのホップ栽培

…なぜ驚いたのか。それは、ホップの生育環境にあります。日本では、ホップの産地といえば東北地方より北が適地と考えられていました。つまり、関西である与謝野町でホップを育てるというのは、それまでの常識的には無理があったのです。

藤原「関西では誰もやってなかったので、無理なんちゃう?と言われていました。でも世界の産地を見ていると緯度が35〜55度で、与謝野町はこの範囲内だし、気候的には問題ないと思っていました。実際に栽培できたのを見て、仲良くしていた与謝野町の人が、町の農林課に持ち込んではどうかと提案してくれたのが始まりです。」

その後、町をあげてホップの栽培に取り組むこととなり、協力する農家と出会ったことから、与謝野ホップのプロジェクトは文字通り急速に実っていきました。「地元の方との縁で広がりました。一人でやっていたらこんなことはなかったと、ほんとに思います」と藤原氏は語ります。

参考書が無く、手探りで始まった

参考書が無く、手探りで始まった

前代未聞のプロジェクト。最初に手掛けた農家である山本氏は、どう感じたのでしょうか。

山本「ホップの栽培に関しては最初、全く知りませんでした。クラフトビールについても詳しくはないんですが、毎年何か新しい作物はやっているので、その中の1つということで。その頃、りんご園が30年経っていて更新しないといけない時期でもあったので、思い切ってりんごの木を切り、ホップ畑にしてみました。」

りんご園を改良してまで取り組んだホッププロジェクト。この「やってみよう精神」がなかったとしたら、実現していなかったかもしれません。

山本「最初は参考書的なものが無かったので、技術的には手探り状態でした。幸い、藤原さんの紹介でキリンビールの村上先生(世界的なホップ博士)に教わったり、何度も視察に行ったりして教えてもらいました。」

栽培に関する情報が無い状態から、人と人との縁で乗り越えていった与謝野ホップ。
実は、そのホップ博士の村上先生から、「与謝野ホップは北半球最速」とお墨付きをいただいたのだといいます。与謝野町のホップは非常に早生(わせ)で、シーズン中、北半球で一番最初に実るのが与謝野町だと分かったのです。
その年に採れた生ホップが、夏が終わるまでにクラフトビールになる。それも与謝野ホップの魅力の1つですね。

地域の問題をビールで解決する

与謝野ホップをさらに独自性のある角度から捉え、ビール作りを志した人物がかけはしブルーイングの濱田氏でした。

かけはしブルーイングのメンバー

濱田「起業するときはビールを作ろうとは思ってなかったんですが。地域活性化をする会社をやりたくて色々勉強していくうちに、〈産業をつくる〉ことが重要だなと思うようになりました。それで、与謝野町で可能性を感じるのはホップだなと思ったんです。」

濱田氏はビジネスコンテスト「INACOME」で優勝、その後会社を立ち上げて初のビールをつくり、クラウドファンディング「makuake」での先行販売で500名以上の支援を受けるなど、急速に事業化を進めていきました。

大量繁殖した牡蠣殻を使えないか?

その事業化の背景には、地域で問題になっている「天橋立の牡蠣殻」がありました。与謝野町には日本三景 天橋立の内海にあたる「阿蘇海」があり、その海の中で「富栄養化」によって牡蠣が大量繁殖しているのです。その牡蠣殻はあまりにも多く、毎年大学生のボランティアさんが駆除活動をしてくださっています。

天橋立の牡蠣殻

濱田「牡蠣殻で何か事業ができないか、と思って調べている中で、ビールの濾過材や水の調整剤として使えるのでは、と分かってきました。今はまず、水の硬度を調整して酵母が発酵しやすいようにする調整剤として使っています。」

結果、ソーシャルビジネスとしての発想に多くの人が共感し、最高のスタートを切ることができたのです。

環境への配慮から「缶」を使うこだわり

環境への配慮から「缶」を使うこだわり

一方、藤原氏が手掛けるビールは、パッケージに「缶」を採用。実は、環境に配慮するという藤原氏のこだわりがありました。

藤原「クラフトビールの瓶はほとんどリサイクルされていないんですが、アルミ缶はリサイクル率が高いんです。あと紙のラベルではないぶん、資源が少なくて済むし、軽いので輸送コストも抑えられます。ビールはアウトドアでも楽しんで欲しいので、瓶だと割れてしまって踏んで怪我をしたり、野生動物が誤飲したりすることもあります。それが結構問題になってますね。あと缶は光を通さない分、品質が落ちにくいのもありますね。」

藤原氏が手掛けるビールはその思いから、缶のデザインに与謝野町で生息する動物が描かれています。与謝野ホップのビールには、単に美味しいというだけでなく、それぞれのこだわりとして、持続可能な社会づくりへの意識がありました。

フルーティーなホップの香り凝縮!

フルーティーなホップの香り凝縮!

そんな与謝野の生ホップを使ったビールの味わいはいかに?

まずは藤原氏が手掛ける「Hop-Up Beer ハレバレゴールデンビール」。こちらは「ホップの爆弾」と形容されるほど!フレッシュホップの香りを凝縮したビールです。柑橘系のフルーティーな香りが口内いっぱいに広がりつつも、ホップ由来の苦みが心地よく響きます。摘んだその日に生ホップを真空冷凍することで、そのフレッシュ感が生まれるとのこと。

藤原「乾燥ホップと生ホップだと、香りが全然違いますね。ホップの魅力を伝えていきたいので、ホップアップビールという名称でやっています。同時に、ビールの多様さも伝えていきたいし、日本オリジンのビールをやっていきたいというのが発端なので、与謝野スタイルがそうなっていくのが理想ですね。」

この他にも「ツキカゲブラック」があり、こちらは濃いブラウンのビール。一見、濃くて飲みにくそうに見えて、実はなめらかな喉越しで「飲みやすい」と評判。フレッシュホップを活かしながらもロースト感があり、ハレバレゴールデンとは全く異なるキャラクターがビールの面白さを感じさせてくれます。

一方、同じ与謝野ホップを使っていても、やはり味わい、香り、色が異なるビールが生まれました。それが、かけはしブルーイングが手掛ける「ASOBI」です。
ASOBIは、与謝野ホップの香りと苦味を感じられることに加え、焦がした麦である「カラメルモルト」を使用し、麦の甘みも引き出されています。クラフトならではの力強さもしっかり。

濱田「ホップの香りがたちつつ、カラメルモルトで甘みを引き出しています。ホップをたくさん使うと苦味が強くなるので、甘みでバランスをとった感じですね。チェダーチーズとか、味の濃い料理に合うビールです。」

与謝野酒造、およびかけはしブルーイングは、現在は醸造所を持たず、レシピやコンセプト等を決定した上で、クラフトビール業界で定評のある醸造所に製造を依頼しています。しかし、今後の構想としては、与謝野町に醸造所を構えるのが目標。彼らの情熱と行動力があれば、それは間違いなく実現されることでしょう。

与謝野ホップを使用したクラフトビールは、この他にもKOHACI beer worksが手掛ける「世屋の琥珀」「丹後の季節」も登場しており、今後も続々と新しいビールが生まれる予定です。

醸造家の多彩な感性を楽しむ

藤原「国産のホップは、今後もさらに人気が高まると思います。与謝野町は、多彩なホップの品種を持っているのが強いですね。品種としては1〜2種類くらいの産地が多いんですが、与謝野町では11種類手掛けているんです。」

農家の山本氏は、「品種をたくさん作るのは難しい」と語りながらも、事実として、これだけの品種のホップの栽培を成功させています。醸造家の思いに応える農家の適応力が、与謝野ホップのクラフトビールの可能性を支えているのです。

多彩な品種のホップと、多彩な感性を持った醸造家たちが次々に現れている。
そして、共通した原料を使っていても、醸造家の思い一つで違ったビールが生まれる。この多様さと奥深さ、「人間の介在」が強く影響することが、クラフトビールの魅力ではないでしょうか。

藤原「与謝野に行ったら、いろんなビールが飲める。ホップの体験もできて、そこでできたビールも飲める、ということにつながっていけたらと思います。」

与謝野ホップと、与謝野スタイルのクラフトビールは、これからも進化し続けます。今年、フレッシュホップのビールは美味しかった。でも、来年飲めば、きっとまた進化している。ぜひその進化の過程も、一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか?

かけはしブルーイング

かけはしブルーイング

KOHACHI beerworks

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海の京都市場で 「京都丹後クラフトビール 」をお取り寄せ

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