暮らしの智慧を紡ぐ新しい旅

まちと文化

暮らしの智慧を紡ぐ新しい旅

“観光地”から“関係地”へと紡ぐ新しい旅のカタチ

2021年2月21日、28日、3月7日の3回にわたって、
「Local Wisdom Tour in Tango~地域の智慧を次世代へと紡ぐ旅~」という新しい形のオンラインイベントが実施されました。

京都府北部、丹後半島で暮らす人々が昔から営んできた、豊かで自然と調和した、暮らし、働き、ものづくり。
そこには長い年月をかけて紡がれてきた「Local Wisdom(地域の智慧)」が存在します。

そんな暮らしと手仕事の智慧の数々と、それを伝承する賢者と出会い、働き方と暮らし方、生き方を再発見する旅。

これがイベントのコンセプト

オンラインツアーに先駆けて、2021年1月には今回のコンセプトやコミュニティツーリズムへの理解を深めるためのキックオフイベントも開催されました。
ゲストスピーカーには、京都市京北町にてコミュニティツーリズムに取り組まれている(株)ROOTS 共同代表の中山 慶氏と曽 緋蘭氏を迎え、地域産業の木材とツーリズム、グローバルな教育を掛け合わせた新しい取り組みのお話などを伺いました。

途中、参加者とスピーカーの対話の場を設けるなど、新しい出会いや関係性が深まるための工夫も凝らされていました。
京北や丹後以外の地域からも総勢80名以上の方が参加し、地域性の比較や地域を捉え直す新しい視点を得ることで、自分の暮らすまちの魅力を再発見したり、新しい時代のツーリズムの在り方にヒントを得た人もいたようです。

終了後のアンケートには、「実際に京北に行ってみたい」や「今後のLocal Wisdom Tourにぜひ参加したい!」という声も多数あったようです。

「Local Wisdom Tour in TANGO」では、
3回にわたって、講師の方にそれぞれのテーマで“地域の智慧”を紹介してもらっています。
ここでいう、“智慧”とは“知恵”と少し違う意味があるそうです。

智慧は“気付き”を意味する

“智慧”とは、仏教用語のサンスクリット語(s:prajñā)から来ていて、「気づき」という意味があります。
知識は知ることによって得ることができますが、智慧は本人の体験や経験によって得るもの。
だからこそ、体験や経験による様々な気づきにより、今まで気づかなかった角度や視点で物事を捉える事が出来るようになるとのこと。

気づくことで、地域の見え方や出会い方も変わってきそうですね。

では、第1回目から3回目までそれぞれの講師の方とテーマを紹介していきましょう。

第1回目は、京丹後市の「遊絲舎(ゆうししゃ)小石原 将夫」さん。

“藤布”は藤蔓の繊維で織り上げられた自然布(古代布)で、古来よりほぼ日本全国で日常生活において身を護る衣として使用されていました。

小石原さんからは、藤布の伝統的技法や藤という植物のもつ生命力の神秘、古代人が藤布を纏うことにかけた「不死」への願いや精神性などについて語られました。

(参加者の感想)
「藤の木から糸へ、糸を績み、糸から織りへの、大変な作業工程に驚きました。古代からの技法を受け継ぎ守ってこられた小石原さんの、脈々とつながる命への深い思いが心に残りました。」
こんなコロナ渦の時代だからこそ、遥か昔から人間の”生きる”ということに対する真摯な願いの物語は、多くの方の心に自然と響いたのではないかと思います。

第2回目は、水産分野の元研究者であり、現在宮津市で漁師をされている「本藤水産(ほんどうすいさん)本藤 靖」さん。

宮津市漁師(地名)の漁師という珍しい自己紹介からスタート

ツアーでは、宮津湾の豊かな里海の恵みを海底の泥や獲れたての天然のエビ、なまこ、タコを実際にモニターに試食してもらいながら紹介

持続可能な漁業を目指して、地元の漁師の方と協力しながら、ナマコの漁獲制限や海洋ゴミの回収、森の木を使った漁礁づくり(海の中の森づくり)など、次世代へとつなげるための取組を語られていました。

(参加者の感想)
「やさしい海は地球のゆりかご。という言葉が心に深く響きました。山の恵みを存分に受けてこそ豊かな海が育まれてゆく。この美しい循環に人の営みを重ねることを想像するだけで心が満たされました。」

持続可能な漁業の活動をとおして、「胃袋だけでなく、心も満たしてくれる」

まさに、“海とつながる暮らしの智慧”のお話でした。

第3回目は、京丹後市の梅本農場でオーガニック野菜を生産されている「ビオ・ラビッツ株式会社 梅本 修」さん。

オーガニックの野菜づくりの原点は、梅本さん自身が大手食品メーカーで勤めていたときに「自分の子どもにも勧められる安全で美味しい食と笑顔を届けたい」という想い。
そこから、我が子だけでなく他の子どもたちにも同じように、「美味しい」と「笑顔」を届けるためにオーガニック野菜の栽培や地産地消、食育の活動を始められたという印象的なエピソードを語っておられました。

また、都市部から移住後、現在梅本農場の農場長をされている井上健吾さんと梅本さんとの出会いのエピソード、都会と丹後で暮らし働くことのギャップのお話には共感された方も多かったのではないでしょうか。

そして、手描きのイラストをもとに「オーガニック」という概念が、単に有機栽培や無農薬栽培の農業を指し示すだけでなく、「人と自然の結びつき」や「自然の法則や循環」こそがオーガニックだというお話からは、自然界の中での人間の本質的な在り方や生き方への問いだと感じられた方もおられたのではないでしょうか。

(参加者の感想)
「お話を伺う中で特に印象に残ったのは”土の話”です。1グラムの土の中にはなんと、100億もの微生物が住んでいて、長い時間をかけて落ち葉や死んだ昆虫、動物を分解し栄養満点の土壌を創り上げていくそうです。その中でまた新たな生命が生まれる。お話を聞いていると、自然は絶えず循環していて私達もその一部なんだということを実感しました。“土とはすべての命が最後に行きつくところ、そしてすべての命が生まれる源”」

オンラインツアーは、参加者には各々の場所からオンラインで参加していただくスタイルで行われました。

各ツアー2時間程で講師の方と現地参加のモニターの方2名、そして進行役(モデレーター)による話を中心にオンライン参加者とのやりとりを交えて進行していきました。

リアルとオンラインが同時につながって双方向で対話が生まれるという、ハイブリッド型のツアーも、これまでなかった新しい旅のカタチかもしれません。

ツアー誕生のきっかけ

このオンラインツアーを企画し、当日の進行役も務めた京丹後市の一般社団法人Tangonian(タンゴニアン)代表理事の長瀬啓二さんに話を伺ってきました。

長瀬さんは、京丹後市出身で京都外国語大学在学中、オーストラリアへ留学し、地元である京丹後市に2010年よりUターン。

中学校英語教員や福祉関係団体や鉄道会社、豊岡DMOへの勤務を経て、「暮らしと旅の交差点」をコンセプトに外国人旅行者へローカルならではの出会いと体験の提供をサポートする「Tangonian」を2017年に設立。(2019年に法人化)
海の京都インバウンドローカルガイド養成講座の企画・運営・ローカルガイドのマッチングサービスも行っています。

僕たちの日常は誰かにとっての非日常

「大学時代のオーストラリア留学中に気付いたことなのですが、いわゆる『観光名所』にあまり惹かれていない自分がいたんです。」

もともと、人が多いところが苦手ということもあったそうで、「有名所だから行く」とか「他の人が行くから行く」という考え方があまり好きではなかったそうです。
それよりも、海外のスーパーに何気なく並ぶ日本では見たことない野菜やフルーツ、公園に設置された誰もがBBQが出来る公共コンロなどの方が気持ちが高まったとのこと。

現地の人にとっては何気ない日常の風景や物事であっても、文化や価値観が異なる人からみたら、全てが新鮮で思わずワクワクしてしまうという感覚を留学中に持ったそうです。

同じように、海の京都エリアで海外ゲストを案内するガイドの仕事を始めてからも、海外ゲストにとっては、日本人の当たり前の風景や物事、慣習にすごく興奮したり、感動されたりすることに驚いたそうです。

「僕らの日常は誰かにとっての非日常であり、誰かにとっての日常は僕らにとっての非日常なんだなと気付かされました。」

そんな日常と非日常が交差する異文化交差点がたくさんあるからこそ、旅はおもしろい。

そして、そんな旅人とローカルの人との交差点が増えれば増えるほど、僕らの日常は少しずつ非日常に近づいておもしろくなってくるんじゃないか、長瀬さんはそのように語りました。

“観光地”から“関係地”へのシフトチェンジ

ガイドをされている長瀬さんは、海の京都のエリアは、豊かな自然環境や食の恵み、歴史や文化があり、何気ない暮らしの中にこそ、魅力がいっぱい詰まっていると言います。

だからこそ、ゲストに暮らしの中を体験してほしいという想いを込めて、「暮らしと旅の交差点」を地域に生み出すことを会社のコンセプトにしたそうです。

同時に、「ただ単に“観光地”を訪れることよりも、訪問先で“どんな出会い”と“関係性”が生まれたのか?」によって、旅の満足度や感動は大きく左右されると思っているそうです。

いわゆる“観光地”は一度行ったきりで、2回目以降訪れていない場所があるという経験は誰でもあるのではないでしょうか。
でも、長瀬さん自身、過去の旅を振り返ると、まちの名前とかは覚えていなくても、旅先で出会ったユニークでおもしろい人や心温まる時間は不思議と覚えているとのこと。

だからこそ、外から足を運んでくれたゲストと地元の方が出会い、関係が深まることでお互いにとって楽しく豊かな時間を過ごしてほしい、そんな思いでガイドをされています。

今回、そんな人と人、地域と地域の関係性がより深まり、地域内で新たな関係人口を創出することを目的とした京都府丹後広域振興局「関係人口創出プログラム」に応募し、採択事業として「Local Wisdom Tour in TANGO」が誕生しました。

地域の智慧を次世代へと紡ぎたい

丹後半島には、豊かで自然と調和した、持続可能な暮らし方や働き方、ものづくりをされている方がたくさんいると長瀬さんは言います。
丹後で暮らしていても、そのことを知らなかったり、出会わなかったり、その価値に気付いてない方も多いのではないでしょうか。地域の智慧を紡ぎ続けてこられた方の高齢化や消費動向の変化により、地域の智慧を紡ぐ担い手が見つからず、自然消滅してしまう可能性もあります。

だからこそ、今まで当たり前過ぎて、目が向けられていなかった地域の智慧の価値を再発見したり、再定義することで「気づき」をもたらすものにしていきたいという想いでツアーにしているそうです。

また、このコロナ渦の中で、都市部では自分の生き方や暮らし方、働き方がこのままでいいのかと自問自答している人もたくさんいると思います。

「Local Wisdom Tour」は智慧を学ぶというよりも、体験をとおして気づきを得る中で自分自身の暮らしを問い直す良いきっかけになるのではないでしょうか。

「関係地」のキーワードは、 知的好奇心や学び、志や共感が原動力

これまでの既存の観光では、「外から来て外貨を落とす人=観光客(お客様)」と「おもてなしをして外貨を受け取る人=提供者」という固定化された関係性でした。

「関係地」という視点に地域がシフトすると、「お客様と提供者」の関係性ではなく、一緒により良い地域や暮らしを創っていける仲間として、お互いがパートナー的な存在になれると長瀬さんは語ります。

今回もツアー参加者の方からたくさんのアイディアをもらったそうです。例えば、暮らしの中に取り入れられる藤布を使った商品開発を一緒に考えたり、海の中の魚の住処である漁礁(ぎょしょう)づくりの活動を一緒に取り組んだり、地域内の課題解決を地域外に暮らすゲスト一緒にできるんじゃないかと思っているそうです。
逆に丹後からは旬な食べ物を送ったり、自然環境を学ぶ機会を提供したりすることでお互いにとって顔が見える良い関係性を築けるんじゃないかとも。
「今はLocal Wisdomですが、これが日本国外の世界の智慧(Global Wisdom)と結びついたときに、新しい文化や価値が生まれるんじゃないかと思うので、そんなアクションを今後ぜひ起こしていきたいです!」

旅も、暮らしも地域も豊かになるそんな関係地を目指し、長瀬さんはこれからも新しい旅を作っていくことでしょう。

【過去アーカイブ動画】

★Local Wisdom Tour in TANGO キックオフイベント「~“観光地”から“関係地”へと紡ぐ新しい旅のカタチ~」

★Local Wisdom Tour in TANGO オンラインモニターツアーVol.1

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