日本最古の「浦島伝説」が残る京都・伊根

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日本最古の「浦島伝説」が残る京都・伊根

 浜辺で助けた亀に連れられ龍宮城へ行く浦島太郎の物語。日本人にとって最も馴染みのある昔話の一つである浦島伝説は、内容こそ異なるものの全国各地に今も語り継がれているが、京都府伊根町本庄浜の浦嶋神社に残る「浦嶋太郎」の伝説は風土記や日本書紀、万葉集にも記されるなど、日本で最も古い伝説とされる。ここには、浦嶋が龍宮城から持ち帰ったとされる玉手箱や、物語の様子を描いた600年前の絵巻物が大切に保管され、訪れた人々を物語の世界へと誘う。

舞台は本庄地区

舞台は本庄地区
浦嶋神社の東方にある本庄浜。浦嶋子はここから龍宮城へ旅立ったとされる

 国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている伊根の舟屋群から海岸沿いを更に北へ進むと、浦嶋神社がある本庄地区にたどりつく。一帯は静寂に包まれ、時折、近くの小学校からチャイムの音が境内に響く。ここから東へ行くと、本庄浜という小さな浜辺に出る。浦嶋太郎が龍宮城へ旅立ったとされている場所だ。
 神社が創建されたのは今からおよそ1200年前の天長2(825)年。祭神は浦嶋太郎として知られる「浦嶋子」。嶋子は、かつて丹後半島の海岸部を治めた日下部首(くさかべのおびと)の祖先に当たるとされる。

五色の亀を釣り上げた浦嶋子。ここから物語は始まる

五色の亀を釣り上げた浦嶋子。ここから物語は始まる
浦嶋伝説を描いた「浦嶋明神縁起絵巻」(写真上)。舟で亀を釣り上げた浦嶋子の姿もある(同下)

 ここを舞台にした浦嶋伝説は、風土記の逸文として次のように伝えられている。
 ――雄略天皇22(478)年7月7日、雲龍山の麓から小舟に乗って海に出た浦嶋子は3日間、波に揺られながら釣りを楽しんでいたが、思うような釣果に恵まれず、諦めかけたその時、美しい五色の亀を釣り上げた。恐る恐る亀を舟に引き上げ、しばらく眺めていたが、やがて眠ってしまう嶋子。ふと目を覚ますと、釣り上げた亀は「亀姫(おとひめ)」という美女に姿を変えていた。
 驚いた嶋子は「どこから来られたのか」と尋ねると、「雅やかなる方が一人で魚釣りを楽しんでいるのを拝見し、話がしてみたくて常世の国から参りました」と亀姫。更に話を聞くと、「実は心優しく、大きな力で国を治めるあなたをお慕いし、常世の国で一緒に過ごしたい」という。
 美女に心の内を明かされた嶋子は、亀姫とともに立派な宮殿が建つ常世の国へ。亀姫の両親の許しを得た2人は結婚し、幸せな日々を過ごした。

嶋子が龍宮城から持ち帰ったとされる玉手箱。中には櫛や鏡など約30点が収められている

 それから3年ほど経ったある日、故郷に残した両親を案じ、亀姫に帰郷したいと告げる嶋子。亀姫は「決して開けてはなりません」と告げ、自分の分御霊(わけみたま)を納めた「玉櫛笥(たまぐしげ)」(玉手箱)を嶋子に渡す。
 玉手箱を持って故郷に帰った嶋子はさっそく、屋敷があった場所を訪れるが、見当たらない。川のほとりで洗濯している老婆に今までの経緯を説明すると、老婆は驚き、「浦嶋子という人は300年前におられた立派な方だったと聞いている。海の彼方へ行ったまま帰ってこなかったとも。両親は悲しんだまま亡くなったそうだ」という。
 常世の国に行っている間に300年もの年月が過ぎてしまっていたことを知った嶋子は、亀姫への思いが募り、常世の国に戻れるのではないかと玉手箱のふたを開けてしまう。すると中から亀姫の香り(蘭の香り)を漂わせて紫の煙がたなびき、常世の国へ向かって飛んでいく。嶋子はその煙を追っていくうちに白髪の老人となり、亡くなった。

社殿正面の龍の彫刻は江戸時代に活躍した丹波国(現在の兵庫県丹波市柏原町)の中井権次の作とされる

 この物語を耳にした淳和天皇は天長2年、小野篁(おののたかむら)を勅使として浦嶋神社を創建し、「筒川大明神」として嶋子を祀った。
 嶋子は農業中心の文化を持つ海人(かいじん)とされ、海外から農耕や養蚕、織物の技術、稲作や鉄の文化を取り入れながら、自分たちの文化を築き上げていったと考えてられている。
 その背景には中国の宗教である「道教(どうきょう)」の教えがある。道教は生きることを大切にし、幸せの世界を海のかなたに求めた。その理想郷が常世の国(龍宮城)であったという。今の社殿は北極星に向けて建てられているが、中国では北極星が長寿や招福の神様として信仰されていることにちなんでいるという。

創祀1200年事業で社殿建て替えへ

 浦嶋神社は令和7(2025)年に創祀1200年を迎える。現在の社殿は明治17(1884)年に建て替えられたもので老朽化が進み、1200年記念事業として本殿の建て替えが計画されている。総事業費は1億4千万円に上るが、過疎と高齢化で同神社の氏子はここ30年で50軒も減少していることもあり、宮嶋淑久宮司は「みなさんの協力を得て、この神社を後世に伝えていきたい」と広く寄付を呼び掛けている。
 浦嶋伝説の様子を描いた「浦嶋明神縁起絵巻(掛幅形式)」や「亀甲紋櫛笥二合(玉手箱)」などを展示する宝物資料館は開館時間が午前9時~午後4時半。拝観料は1人700円。詳しくは浦嶋神社のホームページ(http://www.urashimajinja.org/)で。宮嶋宮司が絵巻物を見ながら解説する「絵解き」も行われている。

地元食材の本格イタリアン

地元食材の本格イタリアン

 浦嶋神社で歴史に触れたあとは、神社に隣接する浦嶋公園内にあるイタリアレストラン「PIENO(ピエーノ)」での食事がお勧め。グランフロント大阪などでイタリアンバール・ピエーノを展開する㈱泰丸の伊根店として2014年10月にオープンした店で、地元食材を使った本格イタリアンが楽しめる。

地元食材を使ったイタリアンや手打ちそば、ぜんざいなどが味わえる

 地元のブランド小豆「薦池大納言」の生産者でつくる㈱KOMOIKEあずき(北西さとし社長)が運営し、泰丸の上西弘泰社長がメニューを監修した。
 地元で水揚げされた新鮮な魚介類や地元野菜を使い、「水蛸パスタ」やサザエが入った「浦島ぱすた」、地元加工のへしこを使ったペペロンチーノといったパスタに加え、地元産のそば粉を使って毎朝手打ちする「筒川そば」、薦池大納言や地元のもち米を使った「ぜんざい」など様々なメニューが味わえる。
 店には京阪神からの客が多く、中には「大阪のピエーノは予約がいっぱいで、同じ看板を見つけたから立ち寄ってみた」という人も。シェフの松山義宗さんは「歴史ある神社とおいしい料理で伊根を楽しんでもらえれば」と話している。営業時間は午前11時~午後2時、水曜定休。

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