廃校に新しい風を

まちと文化

廃校に新しい風を

 過疎化や少子化による学校の統廃合が進む中、京都府福知山市では民間事業者が廃校になった小学校跡地をイチゴ栽培や菓子製造の施設に再生する活動が広がっている。子どもの声が聞かれなくなった学校跡地を人が集う場所として新風を吹き込み、地域に活気を生み出す2社の取り組みを追った。

イチゴ栽培施設に活用

イチゴ栽培施設に活用
ハウス内ではイチゴの摘み取り体験ができる

 文部科学省がまとめた「廃校施設等活用状況実態調査」(2018年5月1日現在)によると、2002年度から17年度に発生した廃校で施設が現存している6580校のうち、74.5%に当たる4905校が公共施設や福祉施設のほか民間事業者のオフィスや工場などとして活用されている。
 福知山市でも12年度から20年度まで小学校の統廃合を進め、約10年間で16校が閉校になったが、廃校への企業誘致を進める市の取り組みもあり、現在は3校が地域の新たな拠点として活用されている。

 福知山市大内の旧中六人部小学校がイチゴ栽培施設「THE610BASE(ムトベース)」として再生されたのは20年10月。市内に本社を置く総合電気技術商社、井上㈱がグラウンドにハウスを建設してイチゴ栽培を始めた。
 同社は本業以外で地域を笑顔にする新規のプロジェクトを社内で募集。社員の家族や親戚など身近な存在の人たちが何らかの形で農業に関わり、生産者の高齢化や耕作放棄地の増加など農業を取り巻く課題も浮き彫りになったことから、自社技術を活用して地域活性化につながる事業として農業に新規参入することにしたという。
  社内に「FIELDS THE BASE(フィールズ・ザ・ベース)」と呼ぶ社員のチームを立ち上げ、19年6月から中六人部地域でイチゴの試験栽培を開始。ノウハウを積み、本格栽培するための広い場所を探していたところ、近くにあった中六人部小の跡地を活用できることになり、グラウンドに約2200㎡のハウスを建てて20年9月からイチゴの本格栽培を始めた。

合言葉は「FUNMER」

合言葉は「FUNMER」
自社のイチゴを使った「けずりいちご」(上)と施設内にオープンしたスケボーランプ

 同社が農業事業で掲げる合言葉は「FUNMER(ファンマー)」。「FUN(楽しい)」と「FARMER(農業者)」を組み合わせ、農業自体を遊びのコンテンツにしようと考案した造語で、井上大輔社長は「作り手も、作ったものを求めて来てくれる人も、みんなが楽しく、地域を笑顔にできる施設に」との思いを語る。

 ハウスでは「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」「かおり野」の3種のイチゴを合わせて約1万5千株栽培。12月下旬~5月中旬のシーズンで7~8㌧のイチゴが実り、摘み取り体験や量り売りで多くが消費される。初年度はコロナ禍にもかかわらず摘み取り体験に2400人、量り売りに2600人の計5千人が訪れたという。
 自社でもイチゴをジャムや大福、焼き菓子などの加工品にして販売しており、今年7月に施設内にオープンしたソフトクリームショップでは凍らせたイチゴをそのまま削った「けずりいちご」(660円~)やイチゴのソフトクリーム(440円~)などを提供。1時間単位の貸し切りでスケートボードが楽しめるスケボーランプも人気を集めている。

地域との〝共創〟で発展を

地域との〝共創〟で発展を
地域住民を招いた交流イベント

 学校跡地を活用しているため、地域との連携も欠かさない。今年6月には中六人部地域の住民を招き、地元の野菜を使ったカレーライスやイチゴのクレープなどを味わうイベント「つながる なかろく」を開催。同社も地域の草刈りに参加したり、イチゴ栽培に地元の人を雇用したりと連携を深めており、井上社長は「これからも地域と〝共創〟しながら、ともに発展していきたい」と願う。

 12月下旬には訪れた人の休憩施設としてカフェが開業する予定で、来夏以降にはクラフトビール工房のオープン計画もあり、井上社長は「子どもからお年寄りまで、多くの人が安心して遊びに来られる場所になれば」と話している。

 THE610BASEの営業時間は金・土・日曜の午前10時~午後4時。イチゴの収穫シーズン(12月下旬~5月中旬)は火・水・木・土・日曜の午前10時~午後4時)。

THE610BASEのホームページ

和洋菓子製造の「里山ファクトリー」オープン

和洋菓子製造の「里山ファクトリー」オープン

 一方、福知山市私市の旧佐賀小学校には今年10月、地元の和洋菓子製造会社が菓子の製造や出荷、売店の機能を集約した「里山ファクトリー」をオープン。一般客は製造現場の見学ができ、ウッドデッキのカフェスペースなどでこだわりの洋菓子を味わうこともできるなど、地域のにぎわい創出に貢献している。

製造工程見える「オープンファクトリー」に

製造工程見える「オープンファクトリー」に
お菓子が製造される様子がガラス越しに見学できる

 市内に本社を構える㈱足立音衛門は、代表商品の「栗のテリーヌ」始めとしたパウンドケーキなどの洋菓子や、どら焼きやようかんなどの和菓子を製造販売。全国の百貨店に直営10店舗を展開している。
 近年は年末年始の贈答用商品の需要が増え、製造や出荷の機能がひっ迫していたことから、廃校を活用して里山ファクトリーを整備し、市内に点在していた製造や出荷の機能を集約した。
 新しい施設には洋菓子と和菓子、ジェラート、チョコレートの工房を整備。各工房はガラス張りになっており、訪れた人が外から製造工程を見学できる「オープンファクトリー」としての機能も備えている。

売店やカフェも

売店やカフェも
足立音衛門の洋菓子が買える売店(上)。カフェにはおいしそうなスイーツが並ぶ

 また、施設内には焼き菓子やギフトセットを扱う売店、シュークリームやジェラートを販売するカフェも営業する。カフェ店内にイートインスペース、屋外にはウッドデッキのオープンテラスもあり、自然あふれる里山の景観の中で、おいしいスイーツを味わうこともできる。将来は空きスペースを活用してお菓子づくりの教室など体験メニューの提供も検討したいという。

 グラウンドは祭りや運動会などで地域に開放しており、同社の土田和典さんは「思い出の詰まった学校が新しい場所に生まれ変わった。これからも地元で採れた野菜を販売するなど地域と連携できる可能性があり、互いに支え合いながら施設の魅力を高めていきたい」と願っている。
 里山ファクトリーの営業時間は売店が午前9時~午後6時、カフェは午前10時~午後5時で1月1日のみ定休。

足立音衛門のホームページ

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