おいしい保存食 進化する丹後の「へしこ」

まちと文化

おいしい保存食 進化する丹後の「へしこ」

 京都府伊根町を中心に丹後地方の伝統的な郷土料理として知られる「へしこ」。サバを塩と米糠(ぬか)で漬け込んだ加工品として地元で親しまれ、丹後の土産品として観光客の人気も高い。薄く切ったへしこを軽く炙(あぶ)り、アツアツのご飯と一緒に、またはお茶漬けにしたりと、味わい方は様々。脂の乗ったサバと糠の奥深い風味は酒の肴にしても絶品だ。50年以上にわたって伝統的な製法でへしこの製造を手掛ける京都府漁業協同組合伊根支所(伊根町平田)と、現代のニーズに合わせて新たなへしこを生み出す「へしこ工房HISAMI」(京丹後市丹後町間人《たいざ》)を取材し、へしこの魅力に迫った。

 昔ながらの味が楽しめる伊根のへしこ、新しい感覚を生かし進化するひさみへしこ。どちらも丹後を代表する食文化である

伝統製法を守る伊根のへしこ

伝統製法を守る伊根のへしこ
へしこを製造する伊根支所のスタッフ(左)。加工施設にはへしこの香りが漂う(右)

 へしこは丹後地方や福井県の若狭地方などに伝わる郷土料理。サバを塩と米糠で1年ほど漬け込んだ保存食で、昔はほとんどの家庭が「我が家の味」として守り継いでいた。
 へしこ専用の加工施設を持つ伊根支所では、脂の乗ったノルウェー産のサバを使用。頭と内臓を取って背開きにし、1週間ほど塩漬けして水分を抜いたあと、塩を加えた米糠を1匹ずつに塗り込む。「ダンベ」と呼ぶ大型の容器に並べ、重石を置いて1年ほど漬け込めばできあがる。
 17年前からへしこ作りに携わる大北直子さんによると、原料となるサバは厳しい目で選別し、キズの無いものだけを使うなど「鮮度にはかなり気を使う」という。防腐剤は使わない昔ながらの製法がこだわりで、「塩辛さが伊根のへしこの良さ。糠を少し取って、切り身にしてから焼くと、本当においしい」と大北さん。現在は大北さんら4人のスタッフが、冬場をメインに年間3万5千匹を製造している。

香りと味に太鼓判

香りと味に太鼓判
伊根のへしこについて語る八木一弘さん

 なぜ丹後地方でへしこが作られるようになったのか。その歴史は定かではないが、漁協職員から伊根漁協の組合長、府漁協の理事まで務めた八木一弘さんは、「昔はどの家庭でもサバやアジ、イワシ、タチウオなど地元で水揚げされた魚でへしこを作っていました」と話す。
 冷蔵庫などがない時代の魚の保存方法と考えられ、八木さんは「昔はたくさん取れたブリを塩漬けにして保存していたが、白米を食べるようになると副産物として糠が出る。その糠と塩で魚を漬けると、更においしく食べられるようになったことから、へしこが作られるようになったのでは」と推測する。

 漁協でへしこを製造販売するようになったのは製造工場が建設された昭和36年。魚の付加価値を高めようと、へしこの製造を始めたといい、「いつでも食べられる保存食」として売れ行きが好調だったため、へしこ用の倉庫まで整備されたほど。以前は地元のサバを使用していたが、漁獲量が減り、脂の乗りも悪くなったことからノルウェー産を使うようになったという。「香りも味も、こんなにおいしいものはない」と八木さんが太鼓判を押す伊根のへしこは漁協での直売のほか、地元のスーパーや土産品店などで販売されている。

人気の浅漬けへしこ

人気の浅漬けへしこ
「ひさみのへしこ」を販売する店内に立つ今出さん

 丹後に絶大な人気を誇るへしこがある。へしこ工房HISAMIの「ひさみのへしこ」だ。独自の浅漬け製法により塩辛さを抑え、従来のへしこより万人受けする味わいに仕上げている。販売数は年間4万~5万本ほどにもなり、同店を営む今出龍さんは「へしこは日本にしかないので、『世界一売れているへしこ』になるのでは」と胸を張る。

地域の特産品めざす

地域の特産品めざす
漁港がある間人

 「ひさみのへしこ」の基となった浅漬けへしこは、今出さんの祖母が戦後に魚の行商をしながら間人で作っていた。京都市へ出向いた際、錦市場で働く人に土産として配り好評だったというが、当時は売り物ではなかった。
 戦後の混乱が落ち着いてから、祖母は間人で食堂「ひさみ」を開く。料理人の経験を積み、ひさみを継いだ今出さんは、店を移転した1993年ごろから「カニのほかにも地域の特産品になるようなものはないだろうか」と考えるようになり、着目したのが祖母のへしこだった。

幅広い層ターゲットに

幅広い層ターゲットに

 作り方は祖母から教わり知っていた。昔ながらのへしこより食べやすいことから幅広い層をターゲットに据え、商品化に着手。祖母の製法を更に改良し、減塩などが求められる現代の食生活に合ったへしこに仕上げ、十数年前から「へしこの浅漬け」と銘打って販売を始めた。

製造・販売の拠点を開設

製造・販売の拠点を開設
へしこ工房HISAMI

 地元を中心に評判が着々と広がる中、2014年には関西テレビの情報番組「よ~いドン!」の商品ランキング企画で1位を獲得。地域外での知名度が飛躍的に高まり、右肩上がりだった販売数が更に伸びた。17年には、ひさみの隣に製造・販売の拠点となるへしこ工房HISAMIをオープンし、へしこの事業が加速。黒こしょうやカレーを加えてアレンジしたへしこのほか、パスタソースなどのへしこを使った加工品も展開する。

止まらない進化

止まらない進化

 浅漬けであることが現代のニーズに合致した「ひさみのへしこ」だが、進化は止まらない。今年11月には、へしこを応用した新感覚の糠漬けを発売。白ワインやヨーグルトを組み合わせた糠床で魚を熟成・発酵させたもので、へしこを知らない層の需要を狙う。

次世代の糠漬けに

次世代の糠漬けに

 本来、へしこは保存食。年中、食品が入手できる現代において保存性を高めるための塩分は不要と考え、へしこが持つ「発酵」「熟成」「うまみ」といった付加価値を生かせるように独自の糠床で漬ける「旨米(うまい)漬け」を開発した。さわやかな熟成感とうまみが特長という。
 旨米漬けはサバとサケのほか、京鰆(府内で水揚げされる1.5キロ以上のサワラ)もある。今後は地元の食材を活用しながら旨米漬けの商品を拡充していく方針だ。
 浅漬けから〝次世代の糠漬け〟にまで姿を変えたへしこ。へしこ工房HISAMIの今出健太さんは「世界へ発信していきたい」と意欲を見せている。

味わい方いろいろ

味わい方いろいろ

 へしこは、焼いてご飯に乗せたり、お茶漬けにして味わうのが一般的だが、伊根支所ではより多くの人に味わってもらおうと、へしこ料理のレシピ集を作成。その中から2品のレシピを紹介する。

〔へしこチャーハン〕
 材料(2人分)
  ご飯…お茶碗大盛り2杯
  へしこ…30㌘
  卵…2個
  青ねぎ…50㌘
  いりごま…大さじ2
  しょうゆ…小さじ2
  酒…少々
  鶏がらスープの素…少々

 作り方
 ①中華鍋を十分に熱してからサラダ油大さじ1を入れてなじませ、とき卵を入れて手早く混ぜ合わせ、ごまを入れて更に炒める。
 ②①に焼いて身をほぐしたへしことご飯を入れて、玉じゃくしで上からたたいて焼きつけるようにしながら混ぜ合わせ、ご飯と卵とへしこをよくなじませる。
 ③しょうゆ小さじ2と酒少々を鍋はだから回し入れ、鶏がらスープの素を入れて炒め、小口切りにしたねぎを加えてざっと混ぜ、火を止める。

〔へしこコロッケ〕
 材料
  へしこ…適当
  ジャガイモ…中7個
  タマネギ…1個
  バター…大さじ3
  牛乳…少々
  塩・こしょう…少々
  小麦粉・卵・パン粉・揚げ油…各適宜

 作り方
 ①へしこは焼いて身をほぐしておく。
 ②ジャガイモは茹でて潰す。(蒸したり・電子レンジでも良い)
 ③タマネギはみじん切りにし、フライパンにバターを入れて炒め、軽く塩こしょうをする。
 ④ジャガイモが熱いうちにタマネギを入れて混ぜ、牛乳(生クリームでも可)を入れ、塩こしょうで味を整える。
 ⑤コロッケの具を、作りたい個数に分け、丸や小判型の好みの形に丸める。この時へしこの焼いて身をほぐしたものを真ん中に好みの量を入れて丸める。
 ⑥小麦粉、とき卵、パン粉の順に衣につけて、油でカリッと揚げる。

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