あきらめていた家族旅行が実現 京丹後でユニバーサルツーリズム

旅とトレイル

あきらめていた家族旅行が実現 京丹後でユニバーサルツーリズム

 「海を見たことがないあの子にも、この景色を」。病気や障がいにより、あきらめていた家族旅行が、日本海に面した京都府京丹後市で実現できるようになった。同市の一般社団法人KYOTANGO THREAD CARAVAN(キョウタンゴ・スレッド・キャラバン)が、観光と医療の連携による「ユニバーサルツーリズム」の取り組みを始めたからだ。主に対象とするのは、医療的ケアを必要とする子どもとその家族。安心して過ごせる環境を整え、忘れられない思い出をつくってもらう。

旅館と医療機関が連携

 ユニバーサルツーリズムは、年齢や障がいなどにかかわらず、全ての人が楽しめる旅行。施設のバリアフリー化などで広まりつつあるが、ハード面の整備だけでは対応できないケースもある。それは、在宅での治療が必要な子どもや終末医療を受けている人の宿泊だ。

 スレッド・キャラバンが誕生した背景には、地元企業が構築したユニバーサルツーリズムの態勢があった。旅館と医療機関が連携したもので、おそらく日本で初めてという。

誰もが安心して泊まれる宿を

誰もが安心して泊まれる宿を
自身の経験からユニバーサルツーリズムに注力する小谷さん=記事中の写真はいずれもKYOTANGO THREAD CARAVAN提供

 京丹後市網野町小浜に本社を置き、宿泊施設と飲食店を経営する㈱小谷常。社長で女将の小谷奈穂さんは、自身の経験からユニバーサルツーリズムに注力する。

 小谷さんは生まれてすぐに10時間を超える手術を受け、持病により幼少期から入退院を繰り返してきた。相部屋の病室には同じように入院している子どももいたが、家族から掛けられる言葉は共通していた。「元気になったら○○へ行こう」。旅行は一つの目標であり、遠い存在に感じるものでもあった。

 自宅療養になってから、家族との旅行は実現した。しかし、持病は根本的な治療法がない病気。旅先で体調を崩してしまうと対応できる医療機関を探すのが大変で、「家族に迷惑を掛けたくない」という不安な気持ちばかりが強く、念願の旅行でありながらも心から楽しむことはできなかった。

 また、大人になってからは、末期の肺がんだった義母との旅行もユニバーサルツーリズムのきっかけとなった。「どうしても家族で旅行に行きたい」という義母の願いをかなえたところ、亡くなる直前まで「楽しかった」と喜び、何よりの思い出ができた。ただし、旅行中に義母を診察できる医療機関はなく、不安を伴った。

 こうして小谷さんは「誰もが安心して泊まれる宿をつくろう」と考えるようになった。

ハード、ソフトの両方で

ハード、ソフトの両方で
ユニバーサルツーリズムに対応した「水屋敷」

 ハード面では、2022年11月にユニバーサルツーリズムに対応した「水屋敷」(京丹後市網野町小浜)をオープンした。京都府最大の淡水湖である離湖(はなれこ)の湖畔にある4棟の客室から成り、小谷常の宿では最高グレードとなる。

「水屋敷」の外観

 3棟は離湖が一望でき、1棟は庭園の風景が楽しめる。それぞれに床暖房を設けるとともに、医療機器を使いやすいようにコンセントを配置。宿として違和感のない自然なデザインを取り入れながらも全館バリアフリー設計で、うち湖面を望む1棟はタイヤカバーをつけることで室内でも車椅子の利用ができる設計となっている。広さに余裕を持たせ、宿泊客に合わせて介護ベッドなど医療介護物品のオプションを付けることができる。

水屋敷

 ソフト面では、上級救命講習を修了した従業員を配置。同社が京丹後市内で営業する「レイクサイド琴引」「澄海(スカイ)」「水屋敷」の3つの宿と飲食店「丹後ひもの屋」は、いずれも京丹後市消防本部の「救マーク認定事業所」(営業時間中、上級救命講習の修了者が常駐することなどが認定要件)となっている。

宿での往診を手配

 更に、最大の特長が宿での往診。京丹後市大宮町周枳の医療法人ふじわらクリニックと連携する。宿泊予約時に確認した情報を共有し、必要に応じて往診を手配する。

医療法人ふじわらクリニック

「こどもの味方のおいしゃさん」

「こどもの味方のおいしゃさん」
小児科医の藤原さん

 ふじわらクリニックの理事長で医師の藤原大輔さんは、小谷さんと同様に幼い頃から病気で苦しんできた経験があり、ユニバーサルツーリズムに理解を示す。

 藤原さんは誕生した翌日、重症黄疸(おうだん)により新生児集中治療室に入院。「正常に成長できないかも」と言われた。2歳の頃から薬剤性気管支ぜんそくで、幼稚園に行けたのはわずか2日間。4歳の時には脊柱(せきちゅう)の病気で緊急手術を受けた。その頃の記憶に残るのは、自分を背負って緊急病院に連れて行ってくれた父の背中、点滴で固定された腕、病院の窓から見える列車くらいだった。

 小学校では皆勤賞をもらえるまでになったが、中学校では再び入院と手術。悔しい思いをしながらも、高校時代に猛勉強の結果、関西医科大学に合格した。そして転機は、小児科での臨床実習。かつて自分を診てくれた医師のことを思い出し、目の前にいる子どもたちは当時の自分と重なって見え、理想の医師像がはっきりした。「こどもの味方のおいしゃさん」。小児科医への道を選んだ。

医療的ケア児に着目

 小谷常とふじわらクリニックの連携が深化していく中、両者が着目したのは子ども。全国でユニバーサルツーリズムは高齢者が対象になりがちで、「医療的ケア児」への対応が後回しになっているように感じた。

 医療的ケア児とは、人工呼吸器や胃ろうなどの使用により医療的ケアが日常的に必要な児童。厚生労働省の資料によると、在宅の医療的ケア児の推計値は全国で約2万人に上る。医療の進歩で一命を取り留める新生児が増えたものの、退院後も医療的ケアが不可欠となる子どもが増加傾向にある。

「京丹後こども・みらいプロジェクト」がスタート

「京丹後こども・みらいプロジェクト」がスタート
プロジェクトのロゴ

 小谷常とふじわらクリニックは23年3月、京丹後で医療的ケア児とその家族の旅行を実現する「京丹後こども・みらいプロジェクト」をスタートした。8月にはプロジェクトを手掛ける法人として、スレッド・キャラバンを設立。小谷さんが代表理事に就いた。

4月にあった2回目の旅行には脳性まひの子どもが参加した

 プロジェクトでの旅行は3月を皮切りに、これまでに3回。筋ジストロフィーや脳性まひの子どもを受け入れてきた。

初めての旅行、初めての海

初めての旅行、初めての海
初めての海水浴が実現した3回目の旅行

 8月26日、27日に1泊2日であった3回目は、ゆう薬局グループ(本部・京都市)のサポートを得て開催し、京都市などから5家族19人が参加。小児科医や薬剤師、訪問看護師、理学療法士らの医療チームとともに対応し、事故などのトラブルはなく無事に終えることができた。

花火を楽しむ参加者

 参加者にとっては初めての家族旅行。海を見たことがなかった子どもが初めて海を見て、海にまで入り、夜には花火を楽しんだ。忘れられない思い出ができた。

 気管切開している子どもとともに参加した医療従事者の父親は、家族での旅行はあきらめていて一緒に海に入ることは想像すらできなかったという。旅行の終了後、「子どもにとって一生忘れることがない貴重な体験、経験ができた」「父親として、とても幸せでぜいたくな時間を過ごせた」などとスレッド・キャラバンに感想を寄せた。

成功事例つくり全国へ

 今後、企業や医療機関との連携を広げ、医療的ケア児の受け入れを拡大する方針。小谷さんは「京丹後には奇麗な海があり、冬には雪が積もる。見たことのない景色を見に来てもらいたい」と意欲を見せる。

 ただ、活動を京丹後だけにとどめるつもりはない。「医療」「観光」「地方創生」の3つの軸から安心して旅行のできる医療提供体制を整えていくために、まずは地元で成功事例をつくる考えで、小谷さんは「私たちの取り組みをきっかけに日本全国の旅館やホテルなどの宿泊業に従事されている方々が理解を深め、子どもたちが安心して旅行ができる環境が全国に広がってほしい」と力を込める。

問い合わせ先

【一般社団法人KYOTANGO THREAD CARAVAN】
【京丹後こども・みらいプロジェクト】
担当者:谷岡さん
電話:080-3865-1842
メール:info@kyotango-threadcaravan.com

 
 

「水屋敷」でも! すぐに使えるふるさと納税「海の京都コイン」

「水屋敷」でも! すぐに使えるふるさと納税「海の京都コイン」

 ご紹介した水屋敷で「海の京都コイン」をご使用いただけます♪
 海の京都コインは、ふるさと納税の返礼品として、寄附額に応じて発行される電子ギフトです。海の京都エリア(福知山市・舞鶴市・綾部市・宮津市・京丹後市・伊根町・与謝野町)の加盟店なら、どこでも「お支払いに」ご利用可能です。
 お得なふるさと納税を利用して、ご宿泊だけでなく、海の京都エリアでの体験や飲食もお楽しみください♪

「海の京都コイン」 詳しくはこちらから♪

Share

カテゴリ一覧に戻る