今回は、妻と姉との二人でレストラン列車の旅。
大阪から、しかも日帰りで、朝食コースと昼食コースをハシゴする計画だ。関西圏から手軽に楽しめるこのレストラン列車の旅は、京都丹後鉄道の「丹後くろまつ号」で実現する。
レストラン列車(京都丹後鉄道)「丹後くろまつ号」ハシゴ旅
旅とトレイル
憧れのレストラン列車の旅へ
この日最初に乗る「欧風朝食コース」は福知山から出発し、天橋立までの約1時間40分の旅。
まずは大阪から福知山へ向かう。
宝塚を過ぎたあたりから一気に風景が変わり、車窓には渓谷や田園の景色が流れ、既に旅の気分が盛り上がり、どんな旅が待っているのかと胸が弾む。
定刻通りJR福知山駅に降り立つと涼しい風が頬を撫で、大阪との気温の差を感じた。
京都丹後鉄道のホームに上がると既に丹後くろまつ号が出発の時間を待っていた。黒をベースにゴールドと赤のラインが入った車体は、レトロな雰囲気の中に高級感もあって旅の気持ちを一気に盛り上げてくれる。有名な水戸岡鋭治さんのデザインだそうだ。
車内に入ると、アテンダントさんが丁寧に席まで案内してくれる。温かみのある天然木を贅沢に使った車内に姉と思わず歓声をあげてしまった。全体に和と洋がうまく調和していて、御簾をモチーフにした窓際のシェードは、逆に日本的な雰囲気があり外国の人にも喜ばれそうだ。
ワクワクしながら席にセッティングされていたメニューを眺めながら出発を待つ。
田園風景を楽しみながら欧風朝食
2020年10月からスタートしたこの「欧風朝食」は、丹後・丹波・但馬の食材をふんだんに使った朝食コースで、北近畿でも有名な洋菓子店「カタシマ」のシェフがプロデュースしている。
これは最後のデザートまで楽しみ!
アテンダントさんの挨拶でいよいよ出発。福知山の田園風景の中を走り始めるとすぐに1品目、森のきのこのポタージュが可愛いデミタスカップで運ばれてきた。一口含むとふんわりと地物きのこの香りが鼻を抜け、ポタージュの温かさがゆっくり体に染みていく。
スープを飲み終わったタイミングを見計らって、デリプレートが運ばれてきた。
列車はこのタイミングで大江山口内宮駅に着き、ここで30分程停車する。景色を楽しみながらお互いの近況報告。姉妹水入らずで話も弾む。
デリプレートには但馬牛と朝倉山椒のミートパイ、自家製天滝ゆずドレッシングで食べる地元野菜のサラダ等がきれいに盛り付けられている。毎朝の朝食といったら、バタバタしていて、とにかく何かを口に入れ仕事に行くというもの。こんなにゆっくりと朝食の時間を作れることが贅沢だ。
せっかくなので、ここでワインをオーダー。この丹後くろまつ号では地酒・地ビール・地ワインも充実していて(有料)、予めサイトでチェックしているときから天橋立ワインが気になっていた。
よく冷えた白ワインは、マスカットに似た甘い香りとは裏腹に程よく酸味があり後口もスッキリしていて、料理とも相性が良い。
料理も全体に優しい味付けなので、朝からでもパクパク食べられてしまう。
再び列車が走り出し、しばらくするとお楽しみの3種のデザートが登場。秋の紅葉をイメージした見た目も美しい。
左から、林檎と赤鬼ほうじ茶のオペラ、丹波黒ごまと青のりのショコラ、丹後産さつま芋のクープ。
「ショコラはとても濃厚なので、最後に食べてください。」というアテンダントさんのアドバイスに従って、まずは丹後産さつま芋のクープから。
キャラメルジュレのほろ苦さがさつま芋ムースのふんわりした甘さに輪郭を付けていく。しっかり食事を済ませたはずなのに、スルスルと食べられてしまう。
続いて、紅葉の様な真っ赤なプレートチョコが目を引くオペラ。口に入れるとシナモンが効いたリンゴの酸味と、ほうじ茶クリームの香ばしさが混ざりあっていく。
最後のショコラは一口で食べてしまうのが惜しくて、ちょっとかじってみる。黒糖と黒ごまの濃厚な甘さがガツンと来て、舌の上で溶け出した頃、ほのかに青のりが香る。スッキリとした丹鉄珈琲に合う満足感のある一粒。
ちょうどデザートが終わる頃、電車が宮津で方向転換して走りだす。海が見え始めたらもう天橋立。最後にお土産の「天滝ゆずと赤鬼ほうじ茶のジュレ」を頂き、記念乗車証にスタンプを押して貰った。
ゆっくりと優雅に朝食を楽しんでいるうちに、日本三景のひとつ天橋立まで来られるなんて、とても有意義で贅沢な1日の始まり。
若狭湾の絶景と郷土料理をアレンジしたフルコース
次の「戦国イタリアンコース」が天橋立を出発するのは約1時間後。それまでに腹ごなしも兼ねて、駅周辺を散策することに。知恵を授かる文殊さんがいる知恩寺をお参りして、参道で知恵の餅をお土産に買う。
あっと言う間に出発の時間が来て、今度は天橋立から東へ進路をとり西舞鶴へ向かう約2時間の旅。
車内もさっきとは少し装いが変わり、席にはすでに前菜の用意が整っていた。「戦国イタリアンコース」は戦国時代テーマに丹後の食で楽しむコース。今回はワインとソフトドリンクのどちらかが飲み放題なので、姉は早速ワインを注文した。
イタリアンで肉じゃが?と思ったが、今から向かう舞鶴は肉じゃがの発祥地だそう。柔らかいお肉に甘味のある野菜。親しみのある肉じゃがの味にほっこりする。
バルサミコの癖のない酸味が後を引く茄子やパプリカの揚げ浸しも肉じゃがと相性がいい。
ちょうど舞鶴産魚介のブイヤベースが運ばれてきた頃、列車は奈具海岸に停車。
目の前に若狭湾が広がる絶景ポイントの1つ。ここからは伊根を含む丹後半島も望める。
海を眺めながら魚介の旨味がしっかり効いたブイヤベースを頂く。
続いて出された舞鶴産ぶりのコンフィ。低温でしっとりやわらかく調理されたぶりは脂も乗り、口の中でふんわりとほどけた。
添えられたレモンやトマトとも合い、舞鶴の人気ビストロ店のシェフの技が光る一品だった。
この旅の見どころの1つでもある由良川橋梁を渡る手前の丹後由良駅で列車は約1時間停車。
せっかくの絶景ポイントを見逃さないよう、まずはここで食事を楽しむ。
ご馳走を前に、自分たちの料理失敗談で盛り上がる。
結局、プロに作ってもらう料理ってありがたいね、ということで落ち着いた。
次に運ばれてきたのは、丹後ばら寿司とローストポークの2色重。甘辛く煮付けた鯖のおぼろを散らした丹後ばら寿司は、この地方のハレの日の名物だという。そこに自家製ローストポークやルッコラなどをあしらい2色に仕上げ、海と山の幸が味わえるボリューム満点のご飯料理に。綾部産イマシボリ醤油と天橋立ワインで煮込んだ合鴨ロースのしぐれ煮を合間に挟み、ワインも楽しむ。
出てくる料理に『おいしい〜!』のオンパレード。
メインは明智光秀が振る舞ったとされる味噌汁から着想したという味噌クリームで仕立てた丹波産若鶏のグリル。スープ仕立ての味噌クリームに鶏の旨味がよく合ってクセになる味。
このタイミングで温かい料理が出てくるのも嬉しい。
ゆっくり食事を堪能した頃に再び列車が走り出し、いよいよ由良川橋梁へ。
由良川の河口に架かる長さ約550mの橋梁で関西の絶景ポイントとしても知られている。
一度見てみたかったから凄くワクワクした。
細い1本のレールの上を水面すれすれにゆっくりと進み、若狭湾や由良川、そして空の青、山の緑が混ざり合って独特の浮遊感とちょっとしたスリルも味わえる。運転席の隣を陣取り、童心に還ってその絶景を堪能した。娘たちがいたら自分の世界に浸ってばかりいられないので、そんな意味でも今日は特別だ。
絶景を楽しんだ後にはデザートが待っている。細川ガラシャにちなんだ、ガラシアプリンは、とろりと口溶け柔らかでクリーミー。スッキリとした自家製レモンが入ったフィナンシェも結局ぺろり。
デザートは別腹とはよく言ったものだ。
コースはイタリアンとは言うものの、地元の食材や郷土料理をうまくアレンジした和洋折衷料理なので、世代や国境を越えて楽しめる内容だった。
列車はいよいよ終点の西舞鶴へ。
ここでのお土産は丹後ちりめんの小風呂敷。どこまでも地元のものに拘ってくれていて、この列車の旅だけでも、郷土料理、歴史、絶景、特産品とたくさんの魅力に触れることが出来て大満足。
季節やルートによって、テーマが変わるらしい。今度は両親にプレゼントしようかな・・・
日本海側最大級の海鮮市場、とれとれセンターへ
家で留守番している家族にお土産話だけでは申し訳ないので、日本海側最大級の海鮮市場を持つ西舞鶴の道の駅、とれとれセンターへ。
舞鶴湾に水揚げされた新鮮な海の幸が購入できるほか、それらを目の前で調理してもらい、その場で海鮮焼き・お刺身としてすぐ食べられるという。
お腹いっぱいなのに、もはや説明する必要がないくらい美味しそうな香りに包まれた。
これは是非家族とも一緒に来たい場所だ!
何をお土産にするか迷い何周も歩き、最終的に魚たつの「梅ちりめん」と「焼きたらこちりめん」を購入。
おにぎり好きの娘たちも喜ぶに違いない!
主人には島田商店の最高級品のかまぼこ、「舞づる」をチョイス。晩酌のときに出してあげよう。
帰りは西舞鶴から出る高速バスで一気に大阪へ。
お互い疲れているはずなのに、バスの中でも今日の旅の話や、次に行きたい旅先の話は尽きず、最後まで楽しい時間が続いた。