和のこころをつなぐ vol.2 「花街が生んだ宮津の郷土文化」

まちと文化

和のこころをつなぐ vol.2 「花街が生んだ宮津の郷土文化」

海の京都DMOの文化観光サポーター河田恵美です。海の京都エリアの伝統文化やお祭りの継承、地域文化の活性化のために活動しています。
海の京都Timesでは、祭礼や民俗芸能に関する記事を連載しています。

第2回目は、宮津市の郷土民俗芸能「宮津おどり」について取材をしました。

市民が親しむ「宮津盆おどり」

「丹後の宮津でピンと出した」という歌詞ではじまる、宮津市民であれば誰もが知っている宮津節。宮津節に合わせて踊る宮津盆おどりは、市内の小学生が毎年運動会で披露するなど、子どもたちも慣れ親しんでいる。

毎年8月15日には市民総おどり大会が開かれ、地元企業や中高生、地区代表のチームがおどりを競う。8月16日には宮津の一大イベント、灯籠流し花火大会が開かれ、花火の後に住民が参加する盆踊りは夏の風物詩にもなっている。

指導するのは、日本舞踊の花柳(はなやぎ)流で花柳芳若那(はなやぎよしわかな)の芸名を持つ神田由里子先生。恩師である花柳芳那衛(はなやぎよしなえ)師範のもと、宮津市河原町で住み込みで7年間修行し、師範の資格を取得。恩師の他界後は、花柳吉叟(はなやぎよしそう)師範の指導を受けるため神戸市まで通い、平成6年に宮津おどり振興会を引き継いだ。

観光のまち宮津をPR

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宮津市民文化祭(令和3年11月3日)

宮津おどり振興会は、宮津おどりの保存継承、普及発展、宮津の宣伝を目的に昭和31年に発足した。当時は宮津を訪れる団体観光客が多く、丹後ちりめんの着物を着て踊りを披露し、観光PRのために市の観光課内に設置された。

「公演で踊りに行く度、お客さんが着物を触って丹後ちりめんの美しさにうっとりされていました」

設立当初からのメンバーで今年80歳の勝山比登美さんは、目を輝かせて当時をふり返る。現代のイベントコンパニオンや舞台芸能のような、それはそれは華やかな世界だったという。

北前船がもたらした繁栄

今から400年前、京極高広が七万八千二百石を与えられ、近世の中心都市である城下町宮津が作られた。江戸時代中期、宮津は丹後ちりめんや海産物などの商品の流通拠点、醸造業を支える「海の総合商社」といわれる北前船(きたまえぶね)の寄港地として栄え、廻船問屋などの商人たちが文化を形成し、明治中頃まで繁栄をもたらした。
幕末の1842年、宮津城主の本庄宗秀が東新地、現在の新浜(しんはま)地区に茶屋を集め、遊郭ができた。

二度と行こまい丹後の宮津
縞の財布が空となる
丹後の宮津でピンと出した

宮津の遊廓は、京都の祇園に相当する高い格式を持つとされ、大勢の芸妓や舞妓を抱える茶屋町であったため、さまざまな芸能が育った。また、新浜のおもてなしは「二度と行こまい(行かない)」(諷刺的表現。行きたいが、行ってしまうとお金を使いすぎて財布が空になる)と思わせるほど質が高かったといわれている。

北前船で宮津に訪れ、滞在した商人を芸妓がもてなし、「縞の財布が空となる」まで夜を楽しんだ。ここで育まれた宮津の芸者文化は、当時新浜を訪れた外国人の心も惹きつけた。

100年以上前、ドイツ人旅行家でベストセラー作家のベルンハルト・ケラーマン(Bernhard Kellermann)は、シベリア鉄道で日本を訪れ、東京、横浜、京都、宮島、大阪を旅行したが、「丹後の宮津」が最も気に入った。彼は『日本印象記』の宮津の項で「日本に滞在中、この町が一番面白かった。この町の話をするのは、友人の事を話すように嬉しい・・・」と記している。著書「SASSA YO YASSA(日本の踊り)(1911)」では、宮津の芸妓たちの踊りを描いている。

郷土芸能の誕生

郷土芸能の誕生
今も花街の風情が残る新浜界隈

花柳芳那衛(はなやぎよしなえ)師範は、当時芸妓の取り次ぎや事務管理をしていた検番の2階にあった歌舞練場で芸妓に芸を教えていたそうだ。宮津観光祭では、太鼓や三味線などを演奏する地方(じかた)を乗せた芸妓屋台を宮津踊り振興会のメンバーが曳いて町を練り歩いたこともあった。

新浜通りにある歌舞練場(検番)の看板

宮津おどり振興会のメンバーが継承するのは、このような花街文化の中で育まれた「芸能」としての踊りに観光PRの洗練した要素を取り入れた。「宮津節」、お殿様が家臣に踊らせた武士の踊りである「宮津盆おどり松坂」、北前船によって九州から伝えられた「あいやえ」の3つを合わせた「宮津おどり」の民俗芸能は、平成30年に市の無形民俗文化財に指定された。

発足当時から振興会に所属していた市内在住の女性に当時のお話を聞いた。

「20歳の頃から踊っていますが、舞台に立つと芸能人になった気分です。踊りと
踊りの間の衣装替えは1分〜3分でしなければなりませんでした。着物の着付けから教えてもらい、早く衣装替えができるようにならなければ踊れませんでした」

全国、海外を飛び回り、宮津おどりで観光のまち宮津をPRした。昭和45年には、大阪の日本万国博覧会にも出演。この頃は最盛期で35名いたが、その後だんだんと結婚などで辞めなければならないメンバーが出てきた。

「宮津の観光振興のため、ただただ必死に踊りました。一番良い時期に踊らせてもらい、なかなかできない経験になりました。後継者を育てられなかったことだけが心残りです」


発足から60年、振興会メンバーたちの高齢化が進み、稽古の参加者を募集したが、なかなか続かなかった。

今年から6人が新しいメンバーに加わったが、そのほとんどは60〜70代、中には80代の方もいる。だが、彼女たちの踊りは年齢を感じさせないほど生き生きとしていて、背筋がピンと伸び、足の動きもしなやか。指の先まで気持ちが込められている。

マニュアルなしの対面指導

マニュアルなしの対面指導
市民文化祭で披露された宮津おどり(手前中央:片尾美穂さん)

10月、宮津おどり振興会が毎月行う踊りの稽古を見学した。11月3日に開催された、宮津市民文化祭に向けての練習だ。

「間をとることが難しいけれど、とにかく踊ることが楽しいので続けていきたいです。神田先生の教え方は、厳しさの中に優しさがあると思います」

最年少22歳の片尾美穂さんは、今年6月から踊りの稽古を始めた。最初は神田先生に誘われて入ったが、着付けを教えてもらい、周りの先輩たちが楽しそうに踊っているのを見て、自身も楽しみながら続けている。現在は三味線にも挑戦中だ。

文化祭に向けて、地方(じかた)※の練習も行われていた。小学2年生の関野開(かい)君、5年生の晴庸(はるのぶ)くん、お母さんの関野里奈さんは、宮津小学校で神田先生に教えてもらって以来、稽古に参加している。お兄ちゃんとお母さんは三味線、弟は、唄を練習している。開(かい)君は、練習の時は何度もやり直していたが、本番は堂々と、「宮津節」の唄を披露した。【※地方(じかた)とは、唄、三味線、太鼓、鉦(かね)など伴奏音楽の総称】

手前:鉦(かね)の練習をする坂本ほたるさん

鉦(かね)を演奏する小学6年生の坂本ほたるさんは、幼稚園の頃に宮津おどりと出会った。毎年春に行われる宮津祭では、地区を練り歩く芸屋台に化粧をして立ち、歌舞伎を披露した。幼稚園では1年を通じて鉦(かね)を教えてもらい、稽古に慣れ親しんだ。

「緊張するけど、達成感がある」と、月1回の稽古に4年以上通い続けている。

大太鼓と小太鼓を叩くリズムは一定だが、ただリズムに合っていたら良いというものではない。叩けるようになってから、それが芸能になるには、プラス「気持ち」を表現する必要がある。この技能を習得するまでに長い時間がかかるという。

神田先生の指導は、ビデオやマニュアル、楽譜などを一切使わない。人と人が対面で向き合って教えなければ、どんな気持ちで演奏しているのかがわからないからだ。自身も過去そのように教わってきたため、「これが芸を教わるということだと思っています」と、先生の言葉には迷いがない。

宮津の伝統文化を後世に

座敷芸が舞踊のように舞台で披露される例は少なく、京都市内からも公演の依頼が来ることがある。宮津の誇りである「宮津おどり」の伝統文化を後世につなぎたい。伝統を絶やしてはならない。そのためには、人を育てなければ。

「『音楽を奏でる』と『音が鳴る』とは違う」という神田先生。

踊りも、三味線も、太鼓も、毎日何度も何度も繰り返し練習することで上達するが、人を感動させる音と踊りを見せる、芸能の世界には終わりがない。

「自分を育ててくださった師匠の想いを後世に残すことが、私の使命だと思っています」

神田先生は、そう笑顔で話した。

宮津おどり振興会のメンバー

宮津おどり振興会のおどりや地方(じかた)は、2022年2月、市内のホテル北野屋で新年の「初舞」として披露される。また、現在も団体観光客向けに市内外のホテルや駅で宮津おどりを披露している。
2022年度も、引き続きおどりや地方(じかた)講座の参加者を募る予定。宮津在住でない方も、日本の誇りである伝統芸能を演じる「粋」な日本人になるため、ぜひ門を叩いてほしい。子どもたちが日本の伝統文化に慣れ親しみ、次世代へつないでくれることを神田先生は願っている。

お問い合わせ:
宮津おどり振興会
神田由里子先生 0772-22-7676

[宮津おどり振興会]踊り手さん・地方さん 募集!

第47回宮津市民文化祭

和のこころをつなぐ vol.1「祭りは地域の架け橋」

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2021.10.8

京都府文化観光サポーターのリンク

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