和のこころをつなぐ vol.3 「動き始めた伝統芸能」

まちと文化

和のこころをつなぐ vol.3 「動き始めた伝統芸能」

海の京都DMOの文化観光サポーター、河田恵美です。海の京都エリアの伝統文化やお祭りの継承、地域文化の活性化のために活動しています。
海の京都Timesでは、主に祭礼や民俗芸能に関する記事を連載しています。新型コロナウイルスの影響で中止になっていた地域のお祭りが、3年ぶりに少しずつ再開に向けて動き始めました。連載第3回目は、宮津市の太刀振りや漁師町浮太鼓保存会の取り組みを取材をしました。

伝統の危機を救え!

2020年から2年間、コロナ禍で全国の祭礼行事は中止を余儀なくされた。地域文化活性化プロジェクト(詳細は記事最後のリンク参照)では、2021年から祭りの保存会の取材や映像制作を行ってきた。海の京都エリアの祭りの中心は、小学生を中心とする子どもたち。3年目となる2022年、新型コロナウイルス感染はまだ完全にはなくなっていないが、ワクチン接種の効果もあり、少しずつ動きが見え始めた。
成長が早い子どもたちにとって、空白の2年間の影響はとても大きい。どの保存会も、伝統芸能の継承に対する危機感を抱いている。

祭はいつ再開できるのか。伝統をつなぐため、形を変えての芸能練習や披露の機会をつくる取り組みが各地で少しずつ広がっている。

小学生最後の見せ場

小学生最後の見せ場
喜多下公民館前で披露する小学生

宮津市では、上宮津地区の喜多太刀振り保存会が先頭を切った。

上宮津の祭礼は4月に行われる。今年も祭礼は中止となったが、太刀振りと太鼓の担い手3名のうち2名は6年生で今年が最後となる。練習だけでもさせてあげたいと、保存会の青年部が立ち上がり、17日までの2週間、平日の夜に毎日練習を行った。

そして4月17日(日)、上宮津の例祭としては神事のみが遂行されたが、喜多地区の太刀振りが公民館前で披露された。天気に恵まれ、太鼓の音に誘われて近隣から多くの観客が訪れた。この日は、地域文化活性化プロジェクトの撮影も入った。2年ぶりに見る賑やかな風景だった。住民たちは「久しぶり」と声を掛け合い、会話をはずませる。

当初は15分間の披露予定が、青年部の太刀振りパフォーマンスもあり、1時間近く続いた。最後には、観客から大きな拍手が湧いた。

約50名の住民が集う

青年部(元締め)の小松さんは「久しぶりだったので大変でしたが、喜んでもらえたのでやった甲斐がありました」と、一仕事を終えて安心した様子。
子どもたちも、久しぶりの披露の機会に緊張気味だったが、終了後はほっとした表情を見せた。

太鼓の音が戻った日

漁師町浮太鼓は、山王宮日吉神社(さんのうぐうひよしじんじゃ) 山王祭(さんのうまつり)(通称:宮津祭)の祭礼芸能の一つで、宮津市指定無形民俗文化財である。山王祭は江戸時代初期から漁師町に伝えられ、宮津城の藩祭として武士や城下の町衆が総出で参加していた。
山王宮日吉神社の牧(まき)宮司は、「浮太鼓は神事と一体となったもの。芸能としては伝統をそのまま守っていくことが大切」という。

5月15日の山王祭も、伝統儀礼だけは継承できるようコロナ禍でも可能な祭礼の形を模索し、去年に引き続き規模を縮小しての開催となった。浦安の舞と太神楽が境内で奉納された後、例年とは違い、装飾をおさえた小さい規模の儀式用神輿で、最小限の町内巡行が行われた。

漁師町浮太鼓保存会副会長の河岸宏泰さんは「(浮太鼓は)生まれた時からあって当たり前。生活の一部になっているので、2年間なかった間は寂しいものでした」という。

保存会メンバーは、2年間練習ができていなかった子どもたちへの伝統技術の継承に不安を覚えた。1年生から練習を始めるはずだった子どもは、一度も練習をしないまま3年生になった。3月に保存会で話し合いが行われた際、このままでは太鼓の技術が継承できないため、練習だけでも再開させようという決定を下した。

こうして毎週土日の夕方、本番までの1か月間の練習が再開された。けがをさせまいと、様子を見守る指導者も緊張気味だ。子どもたちは15日に漁師町の公園内で練習の成果を披露した。年齢の低い子どもから順に太鼓を打つ。年齢が上がるにつれ、技術や躍動感が確実に身についているのがわかる。練習の再開は、将来の祭りや芸能継承を担う子どもたちにとっても、とても重要な決断だった。

大漁祈願と家内安全、海への祈り

大漁祈願と家内安全、海への祈り

山王祭当日、「よいやーさー」の掛け声と共に浮太鼓が宮入りした。儀式用神輿にご神体が移されると、皆が粛々と礼をする。神輿と浮太鼓はその後、漁師町浜まで巡行し、日本三景 天橋立を望む海辺で祈願を行う。

例年の形とは違っても、数百年変わらない伝統儀式をしっかりと継承する姿勢が漁師町には息づいていた。

「天候によっては命がけの漁、普段の生活の平安を、氏神様が守ってくださっている。感謝の気持ちがあるからこそ、祭りにも気合いが入る」氏子たちの祭り再開への願いがある限り、少しずつ本来の形へとつながっていくだろう。

地域コミュニティで受け継ぐ伝統

地域コミュニティで受け継ぐ伝統

宮津市では、須津(すづ)地区でも伝統芸能継承への取り組みが行われた。

例年4月に行われる須津彦神社の例祭が今年も中止となり、子どもたちは3年間、伝統芸能に触れないままだった。

地域の活性化に大きく影響する伝統芸能の継承を危惧し、自治会長の河嶋学さんは吉津小学校の東山校長へ相談した。すると、校長は「学校で太刀振りを練習して、運動会で披露しましょう」と提案。全校生徒に呼びかけると、52名のうち25名が参加を希望した。

練習は、経験のある青年が指導者となり、2年~6年の男女の生徒を対象に合計7回行われた。
見学したのは5回目の練習日。25名のうち、19名は初めて太刀を持ったというが、息がぴったりと合っていて上達が見えた。

見学していた保護者は「少しでも祭りの気分が味わえてありがたい機会です」と口を揃えた。その日は授業で運動会の予行練習をした後だったが、子どもたちはエネルギーを切らすことなく、夜9時までの練習を頑張っていた。3年生の児童は「刀が重くて難しいけどかっこいい」「前よりできるようになって嬉しい」と、運動会本番を心待ちにしていた。

吉津小学校運動会の様子

吉津小学校では、今後も4~6年生を対象に新たに参加者を募集し、クラブ活動などで太刀振りの練習を継続予定。また、「ふるさと宮津学」として授業に神社・例祭の歴史を学ぶ機会を取り入れるなど、地域全体での伝統芸能継承に取り組む。

今回の練習参加者を見ていると、自治会や学校といったさまざまな主体が協力して行った取り組みにより、保存会に関わる人だけでなく地域の子どもたちや保護者も交えた交流が活発になるなど、結果として地域全体の活性化につながっているという印象を受けた。今後、別の地域でもこのような取り組みが広がることを期待したい。

地域文化活性化プロジェクトでは、祭礼芸能の映像制作をメインに活動してきたが、2021年は撮影できる祭礼が行われなかったため、保存会のインタビューを中心に撮影を行い、伝統文化の継承や後継者育成への思いを記録映像に収めた。

現在、海の京都エリアの祭礼芸能保存会は、その多くを地域の自治会が担っている。自治会の住民が一同に揃うイベントを通して、「先人たちが守ってきた伝統を後世へつないでいきたい」という思いこそが、地域に残る独特の祭りを盛り上げ、地域の魅力や価値へとつながっている。

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