海の京都

和の源流をめぐる旅

その五 舞鶴

国の重要港湾に指定されている舞鶴港。
湾の入り口にあたる浦入には浦入遺跡があり、そこで日本最古級(約5300年前)の縄文丸木舟が発見された。
このことは舞鶴港が、太古より「港」として地域や時の権力者に 大切にされていたことを意味する。
それだけ舞鶴という街がもつ歴史は、深い。
海と山を望む風光明媚な場所。海沿いには鄙びた漁村があり、ここで、漁業や魚の加工業などが古くから行われた。
山側には農地が開き、豊かな植生や古墳が多く点在する。

関ヶ原の前哨戦となった田辺城籠城。落城寸前のところ、天皇の御勅命で石田軍の包囲網が解かれ講和に至ったのは、のちの語り草になっている。
そして。明治になり、舞鶴鎮守府が開庁すると、一気に近代的で異国情緒あふれる軍港として発展を遂げた。
西と東、港の文化を中心に、太古の自然が育んだ海と山の恵を訪ねる。

軍港の街、舞鶴を歩く

西と東、港の文化が息づくまち

リアス式の美しい地形に恵まれた舞鶴は、西と東で異なる表情を持つのが特徴。西は廻船を利用した港町として賑った。田辺城を中心に寺社仏閣なども多く、落ち着いた城下町の佇まいを形成。一方で、東は海軍の町として発展を遂げた。昔ながらの漁村が広がっていた町なみは、旧海軍によって計画的に町割りされ、赤れんが建造物によって明治期の近代日本の礎に。その核となったのが、旧海軍の関連施設である魚雷庫、倉庫(赤れんがパーク)やトンネル、橋脚、砲台などだ。赤れんがの風景は、舞鶴のいたるところで目にすることができ、100年以上を経た今でも、当時の趣のその美しい姿を伝える。海軍ゆかりの地を歩きながら、明治時代のノスタルジックな空間にタイムスリップしてみるのも楽しい時間だ。

1
2
3

1.ボランティアツアーガイドの白井友二さんの導きで、赤れんがパークを見学。舞鶴鎮守府開庁に合わせ赤れんが海軍倉庫が作られ、現在も12棟が残る。特に1号棟(赤れんが博物館)は、現存する日本最古の鉄骨赤れんが建造物。魚形水雷庫として、明治36年に造られた。舞鶴は軍港都市でありながら、空襲を受けなかったため、多くの赤れんが建造物が現存している貴重な地域。現在120件の建造物が確認されているそう。2.赤れんが2号館では、海軍ロールをチェック!いち早く洋食文化が根づいた舞鶴。明治41年に発行された「海軍割烹術参考書」という、旧日本海軍が調理担当隊員を育成するための教科書があり、和食はもちろん、洋食、洋菓子まで、200種類の調理法が紹介されていた。その原本が舞鶴海上自衛隊第4術科学校にあり、その中に、このロールケーキのレシピがあった。3.赤れんがには、いくつかの積み方があり、それを見て歩くのも面白い。明治初期は、見た目が華やかなフランス積みが主流。その後は、簡単で手早く作業ができるイギリス積みが多くなった。舞鶴の赤れんがが美しいのは、日本でも数少ないフランス積みが多く残っているから。

4
5
6

4.海軍ゆかりの港めぐり観覧船。中でも、海上自衛隊のOB「舞鶴水交会」が乗り込み船内ガイドを行う1便と2便は、いつも大人気とか。舞鶴湾を一周する30分の船旅だが、護衛艦を至近距離で見ることができて、気分は盛り上がる。ちなみに、海上自衛隊舞鶴地方総監部は、秋田県から島根県までの1600㎞を守るという。また、海上自衛隊北吸桟橋には護衛艦、補給艦、ミサイル艦、掃海艇などが停泊。(土日祝に一般公開)5.舞鶴基地は、181「ひゅうが」を基幹にした護衛艦隊第3護衛隊群。任務がなければ、護衛艦175「みょうこう」、177「あたご」なども見ることができる。6.舞鶴海軍造船所として発足したジャパンマリンユナイテッドのドッグも見える。工場の敷地内には、フランス積みの鉄骨れんがの建造物が連なっているそう。

7
8
9

7.港めぐりのあとは、旧東郷邸(海上自衛隊舞鶴地方総監部会議所)を訪ねてみる。木造平屋建ての建物で、一部が洋館もある和洋折衷の様式。書斎は質素ながらも趣がある造り。この夏公開された映画「日本のいちばん長い日」の中でも、海軍出身の鈴木貫太郎首相の私邸として登場した。8.錨マークの鬼瓦や「一心池」と名付けられた美しい庭園など、敷地面積は約千坪。9.開庁の後、初代指令長官に任命されたのが東郷平八郎。日本海海戦で、その名は国際的に知られることになった。長官としての2年間をこの官舎で、過した。洋館は現在も会議所として使用されているとか。

旧東郷邸を案内してくれたのは舞鶴地方総監部広報官の中村さん。※旧東郷邸は普段は第一日曜日に一般公開。

舞鶴港で、終戦から13年間で出迎えた引揚者の数は約66万人にのぼった。その記録資料は、今年、ユネスコ世界記憶遺産に登録された。眼下に美しく広がる限りなく青い湾には、数々の歴史とドラマティックなストーリーが織り込まれている。古代から中世、近代、現代へと続く、時代の移り変わりを、至るところで見て取ることができる舞鶴。町歩きしてそんな痕跡を、探してみるのが魅力的な楽しみ方の一つだ。後編は、舞鶴の自然が生んだ食の恵をレポート!

English Site Kyoto by the Sea