全国の食通を誘引 丹後の名店2店を訪ねる

まちと文化

全国の食通を誘引 丹後の名店2店を訪ねる

 四季折々の食材が豊富な京都府北部の丹後半島には、全国の食通を引き寄せる店がいくつかある。今回は、ピザの世界コンクールで2位に輝いたピザ職人が経営する京丹後市のピッツェリア「uRashiMa(ウラシマ)」と、ポルトガル出身の和食料理人が営む宮津市のすし割烹「西入る(にしいる)」を訪ねた。

世界大会2位のピザ職人が営む「uRashiMa」

世界大会2位のピザ職人が営む「uRashiMa」

 ウラシマはピザの世界大会で準優勝に輝いた丹後出身のピザ職人、藤原英雄さんが営む。日本海に突き出た丹後半島の西側、京丹後市網野町浅茂川にあるカウンター5席のみのピッツェリアだ。神戸やピザの本場ナポリなどで修業した藤原さんがUターンし、父が営む鮮魚店を改装して2017年2月、開業した。

 浅茂川漁港など地元で水揚げされた魚介や地域の農産物をふんだんに使ったピザを提供。腕ききの職人である藤原さんが特注の窯で焼くピザは評判となり、メディアなどで紹介されることもしばしば。京阪神を始め首都圏からの客も来店し、丹後観光とともに藤原さんのピザを満喫している。

 藤原さんは高校卒業後、絵画や写真を学ぶため地元を離れてデザインの専門学校に進学。ピザとの出合いはアルバイトで入った神戸のイタリアンだった。そこは本格的なピザ窯を備えた200席の大型ピッツェリア。当時、ピザ窯を入れた店は関西では希少で、繁盛店だった。毎日、無数のピザを焼く日が続いたという。

 一度は店を離れたが、ピッツェリアでの仕事は性に合っており、レストラン仲間と過ごす時間は楽しく居心地が良かった。腹をくくって店に戻り、ピザ職人として身を立てることを決めた。

 ピザの発祥はイタリア南部の都市、ナポリとされる。店で調理のイロハを学び、25歳でイタリアに渡った。本場での修業先はナポリ市街の駅前広場にあるピッツェリア。接客するサービスマンはイタリアでは花形の職業。シェフも皆、誇り高かったのが印象に残った。

創作ピザ部門で準優勝

創作ピザ部門で準優勝

 帰国し、しばらくして兵庫県赤穂市にあるピッツェリアの名店「SAKURAGUMI(さくらぐみ)」に入り、約3年間、腕を磨く。その後はキタノホテルグループのイタリア料理店に招聘され、マネジャーも兼任して店舗運営も学んだ。

 ピザ職人の世界大会に出場したのはこの頃で2012年、イタリアで開催された「ナポリピッツァオリンピック」で準優勝を果たす。評価を得たのは旬のタチウオを使ったピザ。新しい創作ピザを競う「ファンタジーア部門」での受賞で、漁港で育った藤原さんの感性と培った技術が融合した一枚だった。

 受賞から5年後、38歳で古里に戻った。都市部で独立開業する予定だったが、天橋立など丹後各地で催されたイベントに参加するうちに心変わりする。家業の鮮魚店を改装し、イタリア製のピザ窯を入れた小さな店を構えた。近くに浦島太郎伝説が残る神社や島があることから、店名を「uRashiMa」とした。

 ピザは1枚税込み1450円からでテイクアウト中心の店だが、来店客との距離を縮めるためカウンター席のみとした。席に座って食べる人のほとんどは遠方からの客。評判を聞きつけ、日本海の小さな港町にあるピッツェリアにやってくる。

今の子どもの懐かしの味に

今の子どもの懐かしの味に

 ―古里の丹後で開業することになった決め手を教えてください。

 近くの浅茂川漁港の新鮮な地魚が使えることと、魚介のレストランなど次の展開も想像しやすかったので、地元で開業しました。恩師の勧めもありました。

 ―全国から人が集まるピッツェリアになりました。

 大変ありがたいです。天候が良いときは近くの八丁浜海水浴場などで海を見ながらピザを楽しんでおられるようです。これから浅茂川地域に様々な専門店が増え、たくさんの人が集まるまちになればうれしいです。

 ―今、力を入れていることはありますか。

 丹後の家庭の味を取り込んでいます。具材には在来の野菜や地元の人が昔から食べているような魚を使うようにしています。オリジナルのピザは好評で、おすすめしています。

 ―将来、どんなお店を目指していますか。

 今、代々続く地域の古い店がどんどん廃業しています。今の子どもたちにとって懐かしの味と言ってもらえるような店を目指し、日々、ピザのクオリティーを上げながら長く続く店にしていきたいですね。

【ピッツェリア uRashiMa(ウラシマ)】
住所:京都府京丹後市網野町浅茂川328‐5
営業時間:午前11時半~午後7時
定休日:木曜
電話:0772‐72‐3798

uRashiMaインスタグラム

ポルトガルの和食料理人が経営する「西入る」

ポルトガルの和食料理人が経営する「西入る」

 すし割烹「西入る」(にしいる)は、花街の風情を色濃く残す宮津市新浜の町家建物に2022年6月、開業した。東京・銀座の日本料理店などで腕を磨いたポルトガル出身の和食料理人、リカルド・コモリさんが妻の小森美穂さんとともに移住し、看板を上げた。

 店は古い町家の蔵を改装したもので、地元の「飯尾醸造」(宮津市小田宿野)が整備した。当初から掲げる店の理念は「素晴らしい丹後の食材を余すことなく提供する」。「私たちは新参者。コンセプトが受け入れられるかどうか不安でした」と美穂さんは振り返る。

 しかし、心得る客は多く、予約は順調に増えて足繁く通う客も出てきた。2人は「様々な方のサポートもあって大変ありがたい」と目を細める。

 米、酢、日本酒、そして魚介、野菜も地元にこだわる。名高い飯尾醸造の「富士酢」で握ったすしを地元で味わってみたいという食通も少なくない。京阪神からの観光客も店を目当てにやってくるようになった。

 リカルドさんは調理師学校を卒業後、すぐにポルトガル・リスボンの日本料理店に勤めた。和食でキャリアを始めたのは在学中、日本食の店で実習したのがきっかけ。客と対面して調理する日本独自のサービスや繊細な包丁の技術に感銘を受けたという。2000年の当時、日本食の店はリスボンに数軒しかなく、どこも繁盛していた。腕を磨くなら忙しい店に身を置きたいとも思っていた。

 リスボンの有名店をまわって修業を重ねていた頃、美穂さんに出会う。店の同僚だった日本人の美穂さんとの出会いがより日本への思いを強くした。結婚後、老舗日本食店の運営を数年任された後、意を決して美穂さんとともに日本に移り住む。関東の料理旅館や東京・銀座の日本料理店の調理場に入り、更に腕を磨いていった。

和食の神髄求め日本に移住

和食の神髄求め日本に移住

 身を置いた日本料理店では、和食の源流である京料理に傾倒する。その後は「修業の総仕上げに」と京都市内の店に移る。京都・五条で営業する「杦(SEN)」。最上級の旬の食材を使う懐石料理の名店だ。

 季節の食材を選り抜き、美術品さながらの漆器や陶磁器の皿に盛り付け、客をもてなすことに集中する。日本料理の本場でその神髄に触れ、そのまま京都市内で独り立ちすることを考えた。しかし、これといった物件に出合えず、思い詰まって休暇がてら丹後を訪れたのが2人の運命を変えた。

 宮津市街地に残る古い町家を改装した店。世話になった先輩の紹介で内見し、ひと目で「ここでやりたい」と感じた。丹後の良質な食材に魅かれたのもあったが、旅で出会った飯尾醸造の当主、飯尾彰浩さんや丹後の酒蔵の蔵元、同じ和食の料理人らとの〝良縁〟も宮津に移り住む理由になった。

 カウンター7席のみのすし割烹を開業。店名の「西入る」は「はるばる来てくれたお客様と西の果てポルトガル出身の店主が料理を通して対話する」という意味を込めた。

 魚介は新鮮な地魚が中心。野菜は地元農家から仕入れるほか、リカルドさんが自家菜園で丹精込めて育てたものも使う。コースは先付け、お椀、お造り、野菜料理、肴、揚げ物/炊き物、焼き物、すし7貫、デザートなどで構成。日本の各地で修業したリカルドさんが日本料理をベースに、これまでに培った様々な調理法と自身のアイデンティティーを取り入れた料理を提供。訪れた人の舌を喜ばせている。

ポルトガル、世界との懸け橋に

ポルトガル、世界との懸け橋に

 ―開業から約1年半が経ち、全国のグルメ客が集まる店となりました。今、力を入れていることはありますか。

 なるべく地域の食材をPRできる献立作りに注力しています。丹後にはまだ知られていない食材があり、多くの人にその良さを知ってもらいたいです。それがこの店に来る理由にもなり、ここでしか味わえない料理を提供していきたいです。

 ―店の特長を教えてください。

 私がポルトガル出身なので、日本酒のほか、ポルトガル料理からインスピレーションを得た料理を一品二品コースに取り入れたりもします。デザートにはカステラの元祖とされるポルトガルのスイーツ「パン・デ・ロー」を用意しており、お客様に好評です。

 ―将来、どんな店にしていきたいですか。展望をお聞かせください。

 毎日がチャレンジです。今やっていることを継続することを大切にしたいです。質を求め、質の良い料理を出すことです。しかし、私たちだからこそできることはあると思っています。将来はポルトガルを始め、世界との懸け橋となり、まだ知られていない丹後のエリアを世界中の人に知ってもらいたいですね。

【すし割烹 西入る】
住所:京都府宮津市新浜1968
営業時間:予約制で、午後6時からのコース料理のみ(税込み1万6500円)
定休日:水・木曜
電話:090‐8370‐4537

※2024年1月31日~2月15日は海外出張のため休業しており予約はホームページの入力フォームから

西入るホームページ

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